11-94 隠の生焼け
物騒な発言が出たが、大蛇だって本気・・・・・・なの? 待って、落ち着いて。
「顎が外れたのね。うぅん、そうだわ! ペタッと地に伏せて。上からユックリ押さえて、グキッとならないようにするから。」
発射秒読みだったが、愛し子の勘違いに毒気を抜かれた大蛇。蛇助けに心を躍らせ、両手を胸の前で組むマル。飼い主に尊敬の眼差しを向け、尾を振るマルコ。
「ワン。」 マカセテ。
ボクも手伝うよ。痛かったら尻尾を、こうクイッと上げてネ。
「いや、その。」
山火事にならないよう加減するも、対象を消炭にする気マンマンだった大蛇。ユックリと口を閉じ、恥じて目を伏せた。
「ふふっ、欠伸してたのね。」
祝社の社憑きを消滅させようとしていた、なんてコト言えません。
実は持っているんです。大気中に溢れる精気を充填し、腹を引っ込める事で一気に放出する必殺技を。
火の七日間で世界を焼き尽くした古代兵器や、地球を救うために出航した、宇宙戦艦クラスの機動力と破壊力を誇るのです。
世が世なら大量破壊兵器保持の疑いで、国際連合の査察を受けるでしょう。
はじまりの隠神ですもの、規格外なのは当たり前?
いえいえ時は古代。集落の要塞化や武器の登場により多くの血が流れましたが、石器や青銅器、鉄器で戦っていたのです。
己の身を大砲にする蛇なんて、ハイ居ましたね。けれど大蛇は例外中の例外。
「う、ウム。寝る前に考え事をしていたら、眠れなくなってな。」
笑って誤魔化す。
「もしかして大蛇、良山の外でウロウロしている、モヤモヤが気になるの?」
ウチの子、スゴイ!
「クゥ。」 アレネェ。
闇は感じないよ、清らでもナイけど。
アレは祝辺の守に言われて、休みなく働かされている隠。釜戸山でも見たモン。祝辺の守にナレナカッタ祝女や祝人、継ぐ子の隠なんだ。
ボロボロになるまで使われて、消えて無くなるまで眠れない。祝社って真っ黒黒なんだね、きっと。
良村の犬で、初めに気が付いたのはノリコ。早稲から良山に引っ越して直ぐ、嫌ぁな感じがしたんだって。
マルが良山の土を踏んで、森川の源の泉に触れて、キラキラ輝く大きな泡に包まれたんだ。
前はボンヤリしてたケド、ノリコみたいに見えるようになったのは『キャン』から『ワン』に変わった時。
驚いたよ。マルが入れる大きさだと思ってたのに、泡が良山をスッポリ覆ってたんだもん。
泡は清らで強くて、爪を立てても破れない。
山に入れるのは国つ神の使わしめ、隠の世で出された札を持った隠や妖怪。人の世の生き物も入れるケド、モヤモヤしてると弾き出される。
良山には入れないんだ。
「マルはアレが何か、知っているのかい。」
デレェ。
「祝社の社憑き。霧雲山は幾つもの山がギュウギュウ押されて、大きくなった山なんでしょう? 真中にあるのは祝社で、頂じゃないのよね。」
ニコッ。
「物知りだなぁ。」
小遣いを与えそうな勢いで、優しくスリスリする大蛇。
「ウフフ、擽ったい。」
一触即発の状態だったが、マルの活躍により機嫌を直した大蛇の計らいで、焼き加減が変わった。
鰹の叩きは美味しいケド、隠の生焼けはね。