11-93 宜しいのですか
人の守は祝社の継ぐ子の中から選ばれた、祝の力を生まれ持つ人。霧雲山の統べる地の、人の長でもある。
隠の守は元、人の守。死後、祝の力を保持したまま隠となる。つまり人の守が弱ければ、隠になっても弱いまま。
前から継ぐ子の力が弱まっていた。だから社憑きを放ち、強い力を生まれ持つ子を探し求める。
霧雲山の統べる地で生まれ育った子なら、どんな力でも構わない。そう考え動き始めた時、釜戸社が北山から『祝の力を生まれ持つ子を救い出した』と耳にした。
纏めて祝辺に迎え、祝社で育てるツモリだったのに!
釜戸の祝は社を通して問い合わせた。縁の者は生きているか、引き取れそうか。死に絶えていたら社で、継ぐ子として引き取れるかと。
ミヨ、タマは玉置の国、宝玉社。タエは飯田の国、茅野社。マルは早稲の生き残りが釜戸の祝に許され、新しく良山に作った良村に居る。
奪いたくても奪えない、引き取りたくても引き取れない、連れ去れない。
マルは大蛇神の愛し子だ、手の足も出ないがタエは違う。茅野から良村に預けられ、落ち着いたハズ。
十二になる前に山守で無くても良い。野呂、野比、大泉、鎮野を除く霧雲山のドコかの山に入れば、イケル。
「と、悪い顔してブツブツ言ってました。」
隠の世、流山在住。『劇団コンコン』座長、嫌呂。
「名は分かりませんが、とつ守が見張ってました。」
同じく。『劇団コンコン』看板役者、悪鬼。
「雲が『ヤメ』『ヤノヤツ』と言っていたので、『ヤ』だと思います。」
嫌呂がモフンと胸を張る。隣で悪鬼が目を輝かせ、控え目に拍手。ポムポムポム。
「そうか、八か。」
不安を増幅させ、心を操る力を持つ十三代、祝辺の守。
前からアヤシイと思っていたが、ハァ。ひとつ守に任せるが、イザとなれば奥津城に。
「大蛇神。」
コンコンず、キュルン。
「良く働いてくれた。ありがとう。」
瓜坊の腿肉に塩を擦り込み、一月ほど寒風に晒した『美味しいの』を一塊、ポンと差し出されドキリ。
「よっよっ、宜しいのですか。」
生ハムを前にコンコンず、ゴクリ。
「ウム。コッコから貰うたが、良村の子が分けて食べるには少ない。傷む前に貰うてくれ。」
「ありがとうございます。」
子狐の川の、源の泉の畔にある狐泉社。九尾の黒狐、愛称コッコが守る泉はモフモフ天国。
泉の南に狩猟小屋はあるが平地が少ないので人里は無く、安心して子育て出来ると若い獣に大人気。
黒狐神の使わしめ、チイは闇移動と闇操作を得意とする黒犲。高い隠密スキルと闇耐性を誇る、お肉大好き妖怪なのだ。
逸れプリプリ肉、コホン。矢が刺さったまま死を待つ瓜坊を放っておけず、親元へ送った。で残りをルンルンで処理し、食べ頃になると御供え。
コッコは妖齢、千年以上。どんなに美味しくても食べきれない。そこで飲み友である大蛇に裾分けし、良村の人に食べてもらおうと考えた。
嫌呂と悪鬼が報酬として得たハムは、その一部である。
「さぁて、どうしたモノか。」
小出社にて、小出神から伺った話。コンコン情報。谷河神が使わしめ、社憑きに集めさせたアレコレ。
全て合わせて考えると、祝辺は本気でマルとタエを狙っている。
マルは我の愛し子、そうそう手を出せぬ。が、タエは違う。
生まれは添野だが茅野に預けられ、良山に入った。許し無く入れば使わしめでも消えて無くなる山だ、外から見張り続けているハズ。
「・・・・・・消すか。」