11-91 マルが望むなら
靁は是の政策を踏襲し、歖に協力した全てを処分。
是の死を喜び、慈一家の断絶を願った雷獣を監視。小さな不正も見逃さず投獄し、危険地帯での降雨作業に従事させる。賃金が発生したり、刑期短縮する事は無い。
死ねば『合同墓地に埋葬する』と、遺族に通知されるダケ。
雷獣たちは獅王、是王時代を懐かしみ、後悔の念に駆られる。
歖王の政策は滅茶苦茶の無茶苦茶。多くの雷獣が落命し、食べ物にも困る生活が続いた。
是王は全ての雷獣が安心して暮らせるよう、天帝に諫言し続けたのだ。なのに、それなのに己らは歖の狂言に踊らされ、是王が死ねば幸せになれると思い込んだ。
「ある意味、復讐だね。」
神成山に戻った流が、白澤から送られた木簡を手にポツリ。
「靁の姉と姪の行方は、まだ分からないのかい?」
「はい。西へ向かった、としか。」
白龒が目を伏せる。
「無事だと良いけど。」
父母に弟まで投獄され、婚家からは厄病神扱い。娘と共に追い出されるも実家は没落。もしアタイならドウする、ドコの誰を頼る。
・・・・・・アンリエヌ。
いや、幾ら何でも無理がある。けれど定められた通りに申請し、認められれば保護されるカモ。
化け王は弱者の味方だし、アンリエヌは強国。農業と酪農、貿易にも力を入れてるって。
「流さま。私、靁の目に狂気が宿るのを見たのです。」
ふぅん。
「雷獣軍団を統率し、天帝の手足となって働くのが雷獣王。靁王は慈の嫡男、是王の臣でした。」
「で、その靁が悪逆非道の心を持つと。獅や慈、是が守ろうとした雷獣の未来、幸福を破壊すると。」
「いいえ、ソコまでは。」
「憎悪の念ってのはね、一度でも抱けば終わりなんだ。永遠に消えない。白澤にも伝えたケド、靁を歖に近づけちゃイケナイよ。歖は兄一家、叔父一家を迫害した大罪獣さ。耐えきれず許しを請うだろう。」
ハッ!
「靁に渡しておくれ。」
「これは?」
「大蛇神、紅白大蛇の愛し子が作った守り袋さ。落すんじゃナイよ。」
「ハイッ。」
さぁて。雷獣の件も片付いたし、そろそろ動くか。
にしてもテイのヤツ、シブトイね。サクッと消滅させられる強者、居らんか?
オッとコウしちゃイラレナイ。郡山に御坐す猫神にアレコレ御伝えするため、隠の世へ行く御許しをいただかねば。
「そうですか。」
祝辺の守が霧雲山を調べている間に、タエを良山から出す。
人の世ではナク隠の世を、大蛇神の背に乗って行くんだ。怖い思いも恐ろしい思いもせず、野呂に行けるだろう。
「シゲ。」
「はい、大蛇様。」
「祝辺の守は諦めが悪い。人の守より隠の守がな、マルの力を求めて居る。タマとミヨは戦えるがマルは違う。」
タマを攫おうと近づくもミヨに気付かれ、アッサリ捕まった御一行様。宝玉神の使わしめ、ケロにパックンされたまま運ばれ、湖中の獄にペッ。
ひとつ守が迎えに来るまで魚にパクパクされ続け、魚恐怖症になったトカ。
「マルが望むなら良山から出します。けど、この手で守りたい。鴫山は釜戸山と同じで山の中に里がありますが、釜戸社と鴫山社は違う。マルを鴫山社に、いや鴫山に近づけたく無い。あの地で暮らす人は、目がドロンとして恐ろしい。良村の誰も近づけたく無いんです。」
「大実社から隠の世に入るのに、イロイロ聞いているからな。マルが鴫山を選ぶ事は無かろう。」