11-90 忘れない
是王が捕らえられて直ぐ叔父、慈一家も側妃に冤罪をかけられ、幽閉された。
両親は拷問の末、幼い弟は栄養失調で落命。
嫁いだ姉は離縁され、娘を連れて逃げたトカ。義兄と甥は戦死、姉と姪を切り捨てたアッチの親は発狂。側妃を襲い、一族郎党に難が及ぶ。
結果、名家だったが没落。断絶したらしい。
劣悪な環境下でも諦めず、狭い獄中を歩き回って筋力の衰えを抑えていたのは復讐するため。
生き別れた姉、姪の幸福を願う事で正気を保てた。『まだ死ねない』『死んでたまるか』と己を鼓舞しながら。
「私は当代から王位を奪い『雷獣の、雷獣による、雷獣のための政治』を行います。歖の政策を見直し、雷獣の生命と財産を守ります。」
・・・・・・パチクリ。
「歖王には休養が必要です。安全で衛生的な、風通しの良い部屋に転居させ、王母の菩提を弔わせましょう。」
歖は使い物にナラナイので退位させ、座敷牢に幽閉。
表向きは病気療養、出家遁世、或いは蟄居か。適当な理由をつけて排斥し、組織改革に着手すると。
「白澤さま。」
何で? ってオレ神獣か。
流はリビア猫だし、やまと国つ神の使わしめ。ココで頼るなら中国妖怪のドンで特権階級妖怪、瑞祥ズ一択だよね。
「善きに計らえ。」
道義的に正しく、善であれ。
歖らと同じ事やからしたら首チョンパするぞ。ですよね、流サン。
「流さま。即位後になりますが『巻物』に手形を押す事、御許し願いたく。」
自ら申し出るとはコヤツ、なかなか見所の有る若者だ。面白い。
「先ず全ての雷獣を集め、譲位の儀を執行せよ。天帝に謁見を賜り、白澤からも許可を得た事を報告。白龒!」
エッ。
「ソレで隠れているツモリか。」
出てるんだよ、髭が。
「お久しぶりです。」
シュルシュル。
盗み聞き? 違いますよ。龒は雲を起こして雨を呼ぶので『晴れてた方が良いカナ』と思い、離れてマシタ。
因みに五龒では金担当。良く人語を話し、万物の情に通じる天帝の使いデス。
別にイイんだけど扱い、雑だよね。龒は大海原や地の底で暮らし、雨雲を統べる力を持つ半神だよ。
幾ら猫又の大妖怪だからって・・・・・・やっ、止めて。シャキンって爪だすの。
申し訳ありません。私が悪う御座いました。もう言いませんってアレ? 声に出てたカナ。
「そうか。」
新王となった靁は賢王として歴史に名を遺す獅の弟、慈の嫡男。
獅も慈も正妃腹、兄弟仲も良かった。
臣として兄に支えたが崩御後、相談役として甥に仕える。側妃の陰謀により捕縛され、己の命と引き換えに家族を守り死亡。
しかし反故にされ、嫡男以外は獄中死。
「靁は慈の子だ。歖と同じ過ちは犯すまい。」
是は正妃腹で幼少期から優秀。側腹だった歖は癇癪持ちで飽きっぽく、是と比較され続け被害妄想になる。
獅は歖の将来に不安を抱き、体術と作法を叩き込んだ。
獅と慈は万が一に備え、靁にも帝王学を修めさせる。
是と靁は互いに切磋琢磨したが、歖はサボりの常習犯。講義に出席しても上の空。
「可能な限り、支えよう。」
死者の影に怯え、母の骸に縋って嘆き続ける歖に見切りをつけた臣により、出獄した靁は忘れない。
冤罪により処刑された王の死を喜ぶ、愚かな雷獣の声を。獄中で慈と靁の無罪を主張し、戦い続けた是王の雄姿を。命を懸けて家族を救おうとした父、慈の思いを。