11-89 教育の賜物
ホウ、そうか。
にしてもテイめ、石室に隠すとは考えたな。人には扱えぬソレは大きな力を加えねば壊れん。
雷に打たれ、割れるまで待ったか。
坦の地は山守の祝だったテイには近づけぬし、山守の大崖は輪の中。山越に隠すしか無かったのだろう。
「大蛇神。この度の事、妖怪の戦に繋がりますか。」
「ソレは無かろう。流が持つ巻物、アレはオソロシイぞ。山越に落ちた雷獣、天帝が差し向けたモノなら天獄、地獄からも妖怪が消える。」
ゾゾゾッ。
「シズエ、山守を見張れ。山守と山越の民を、輪の外に出すな。」
「はい。」
ニャンだい。兄一家を殺してまで奪った王位、死ぬ気で守れよ歖王。にしても凄い顔だね、断末魔ってヤツかい?
コレに違反したんだ、当たり前さね。
中国妖怪の重鎮、天獄と地獄の重鎮、一妖残らず手形を押させたんだ。逃げようとした歖、その母も捕縛して押させたよ。ニャッニャッニャッ。
にしても獅王。美しく賢い正妃が居たのに、ニャンでアレを迎えたんだろう。側妃候補は他にも居ただろうに。
ハッ、もしかして淫薬を盛られた?
「ギャァッ。」
それでもオスか! こんな美猫を前にして何だい。失礼にもホドがあるよ。
「おゆるじぐだざい。おゆるじ、ぐっぐっだざいぃぃ。」
末魔は梵語marmanの音訳で支節・死穴って訳すんだってね。
体の中にある特殊の急所で、他の者がソレに触れれば激痛を伴って必ず死ぬとか。通常では無い死に際の事を断末魔って言うんだっけ? さぞ苦しかったろう。
けどね、良く考えな。アンタ愚息を王にするために、ドレだけ虐げ嬲った。
殺し過ぎたんだよ。
死者の魂は黙ってジッと見つめ、口を開かなかった。違うかい、違わないだろう。
「ア゛兄上ぇ姉上ぇ、ぞんな目で見ないでぇぇ。」
ガタガタ、ガタガタガタガタ。
「ごめんなざい、ごめんなざい。ゆるじでぇ。」
全身の毛が抜け落ち、ハダカデバネズミのようになった歖王。
無駄に逞しかった四肢は割り箸のように細くなり、今にも折れそう。細長かった体もガリガリで、肋骨が浮いている。
「母上ぇ、どうじでぇ。どうじで死んじゃっだのぉ。」
肉親の死を悼む気持ちをドウコウ言う気は無い。
「もうダメだぁ。ボク、もう頑張れないよぉぉ。」
いやいや王だろう、シッカリしろよ。
踠き苦しみ、悶え死んだ母の骸から離れそうとシナイ。
減りに減った臣、死んだ臣の家族は苦苦しく思っている。アレに命じられ親は、子は死んだのか。命を懸けて仕えたのか、と。
「ハァ。見ての通りさ、王母の独断で送ったんだ。天帝も白龒も、モチロン僕も命じて無い。」
白澤が流に訴える。
「その様だね。」
奥からヨロヨロと、ガリッガリに痩せた雷獣が出てきた。その目は虚ろだが、瞳の奥に小さな光を宿している。
臣の支えなく歩く姿は堂堂として厳か。
劣悪な環境で長年、幽閉されていたのに挫けて無い。足元がフラフラしているが真っ直ぐ前を向き、コチラへ歩を進めている。
きっと狭い獄中をグルグル歩き、筋力の衰えを抑えていたのだろう。
大したモノだ。
「猫又の大妖怪、流さま。神獣、白澤さま。獅王の弟、慈の嫡男、靁と申します。許し無く御声掛けする無礼、お許しください。」
倒れないように気を張りながらユックリと、流と白澤の前で平伏した。教育って大事だね、アレとは大違いだ。