11-88 急ぎ動かねば
己を切り取り、石室に隠していたテイの一部を回収。速やかに祝辺に持ち込まれ、本体とは違う獄に幽閉される。
本体が納められた壺には予備が二つあるが、分身が納められた壺に予備は無い。が心配無用。
白泉社の祝が作った『清めの壺』に、靄山社の祝が縒り合わせた『糸の水』が入っているのだ。
落したり何かが打ち当たって割れても、中身が飛び出す事は無い。
壺の欠片に引っ付いて、離れないから。
「私は雷獣の骸を天獄に持ち込み、天帝と話を付けます。」
和やかに話しかける流。目はギランと光ってるケド、爪は引っ込めてマス。
「はイ。」
ビビる人の守。コロンと声が裏返るも、何とか踏ん張った。エライ!
「では私、和山社へ参ります。」
真直がニコリ。
「なら私は、杵築大社へ。」
シズエもニコリ。
ちょっと、チョットちょっとチョット待って。
エッ何、何で和山社? 人の世で起きた事なんだから、隠の世に御知らせする事ナイよね。
杵築大社は分かりますよ、人の世で起きた事ですから。山越ですし、霧雲山の統べる地ですし、山守神の使わしめが御伝えしますよね。
雷獣だっけ、その生き物。
死んでるから生きてナイ、骸だ。で、そう『倭漢講和条約』。ソレに引っ掛かるからテンゴク? テンテイ? 話し合うんですね。
はい、お願いします。お任せします。でも和山社は違いますよね、違うと思い・・・・・・ます。
「人の守。」
「はイ、流さま。」
「テイは己を切り取り輪の外に隠した。神の御坐す山は大祓を執り行い、清められて居る。が山越のように社の無い山、坦のように神が御隠れ遊ばした地は危うい。」
ドキッ。
「坦神は御隠れ遊ばしたが、アラとミヲは人の世に残った。二妖とも山守を酷く嫌って居る。テイは言うまでも無く、山守の民から命を奪う。」
「はい。土や石の川に呑まれ、消えた里や村は坦の他にも御座います。隠の守を集め、輪の外を調べますので御待ちください。」
坦山は長瀬山と同じく山が崩れ、流れ流れて平たくなった。長瀬山は大きかったので流山となったが、坦山は谷を埋めて平地となる。
昔は頂に村と社が在ったが今は森となり、多くの獣が暮らしている。
坦社は山守と祝辺が割れた時に発生した山崩れにより流され、現在地に埋没。
山神で在らせられた坦神は、山崩れで多くの命が奪われると同時に溢れた闇を清めるため、使わしめアラを放ってから全ての魂を清めて御隠れ遊ばした。
犲の妖怪アラは山崩れにより失われた命と魂を救うため、放たれた後も坦神と行動を共にする。
浄化終了後『人の世に残って山守から坦の地を守り続ける』と誓い、現在に至る。
ミヲは清めの力を持つ、坦社の祝だった。
社の離れで機織り中に地が揺れ横転。梭が胸に刺さった直後、倒れてきた柱が後頭部を直撃し死亡。
山崩れにより生き埋めになった人の呻き声、助けを求める声を聞き己の無力さを痛感。闇堕ちし妖怪となる。
清めの力は失ったが肺を包んで圧迫し、窒息させる闇の力を得た事で、鎮守として人の世に残る事を選んだ。
「言わずとも分かると思うが、坦には近づくな。」
「ハッ。」
だから山守神の使わしめ、シズエさまが和山社へ。真直さまが出雲に着く前に、急ぎ動かねば大事になる。