11-86 進物効果
熟女の姿で身悶える流。猫耳と尻尾は引っ込めたが、とても悩ましい。
「樺さま。この辺りで蜂蜜が取れるトコロ、教えてください。」
考えに考えた末、長期保存可能な蜂蜜を選びました。
「はい、こちらへ。」
悪しい『何か』が潜むのは山越、輪の外。
山越の民は山守神を崇めるので、山越に社は無い。そもそも山越も山守の霧雲山、山守神が統べられる地。
加えて、呪い祝テイは山守の祝だった。
禍の元がテイだけなら、山守神が御力を揮われてオシマイ。他の獣なら手に入れたアレコレを山守神の使わしめ、シズエに手渡し御任せする。
けれど選ばれたのは残念ながら、『倭漢講和条約』に引っ掛かる可能性が高い、天獄の霊獣。
シズエは妖狐、それも九尾。テイを片付ける準備を整え、その時を待っているに違い無い。アタイの仕事は対象を雷獣から引き剥がし、白澤に叩きつける事。
古狸や古狐ほどじゃナイけど猫又だからね、弁えてるよ。
「ごめんください。」
進物を持って訪れたのは嗚山、嗚山社。
「お待たせしました。お久しぶりです、流さま。」
「お久しぶりです、真直さま。こちら、靄山で採れた蜂蜜です。」
「良い品を、ありがとうございます。」
嗚山神の使わしめ、真直は犲の妖怪。好きな食べ物は狩り易い獣。蜂蜜が好き、というワケでは無い。
けれど蜂蜜は高級品。
蜜蜂は胃の中に花の蜜を溜め、巣に運びます。
一匹が一時間働いて作れる蜂蜜は0.02グラム、店頭に並んでいる500グラムの蜂蜜を作るのに25000時間。時給800円なら、蜜蜂の給料は2000万円。
ね、凄いでしょう?
ホウホウ、コレはコレは。
「野比と野呂が作った品にも驚きましたが、白泉と靄山が作った壺も優れていますね。」
人の姿に化けた真直、目を輝かせ鑑賞中。
野比と野呂の合作について、噂で聞いたダケで見たワケでは無い。けれどコチラは強い清めの力を帯びた壺に、悪しいモノを絡めとる『糸の水』が入っているのだ。
不器用サンにも扱える逸品。
「山守社は山守や山越の民が何を言っても、『呪い祝が消えて無くなるまで祝を選ばぬ』と決めました。なのでシズエさまがアレを閉じ込め、祝辺の獄に持ち込まれるでしょう。」
霧雲山で起きた事件なので、後始末するのは山守神の使わしめ。流は雷獣を担当します。
「山越から逃げてきた獣の話を聞いて、山越に確かめに行きました。あの岩場、石室を隠すには打って付け。『良く見つけたな』と思いましたよ。分かり難いトコロなので、私も参ります。」
真直がニコリ。国守クウも、蜂蜜を手に微笑んでいる。
「それは心強い。ありがとうございます。」
流、感激。
嘘だと言って!
「山守神。」
「嫌よイヤいや。お願いシズエ、行かないで。」
「山越は霧雲山の一つ。山守の隣に聳えているのに、知らんぷり出来ません。この度の事に白泉社、靄山社、嗚山社が動いたのです。山守社が動かねばドウなるか。」
「ん? 流って渦風神の使わしめよね。」
「はい。テイから切り離された『何か』が天帝に仕える雷獣を取り込んだトカ。流さまは『倭漢講和条約』を結んだ妖怪。やまと中つ国で起きた事なら、神成山の外でも動かれます。ですから、そろそろ。」
「・・・・・・早く帰ってきてね。」
九尾からチョコッと顔を御出し遊ばし、ウルウル。