11-85 わかんニャいよ、どうしよう
山守の呪い祝、テイ。統べる神の御力を以てしても消して無くせぬ化け物、いや怪物。
山守の祝が命を削って戦い、祝辺の守が閉じ込める事に成功したが消滅したワケでは無い。
月読尊の御力が含まれた粘土を心が読める祝が捏ね、ジックリ焼き上げた壺の中で悶悶と過ごしている。
落胆するのは早いぞ、流。
白泉の祝が作った壺に靄山の祝が集めた水。これニャらイケる、イケるぞ!
成熟した大人の魅力あふれる姿に化けていたのに、猫耳と尻尾がポンッ。コレはコレで・・・・・・いやイヤ落ち着け。
「流さま。靄山隠の調べでは、悪しい『何か』は輪の外。それも山越の東からグングン下りた先に潜んで居ります。」
靄山神の使わしめ、樺が切り出した。
「崖の洞、窟かニャ。」
猫耳と尻尾を引っ込ませ、流が問う。
「岩場の端に置かれていた石室に雷が落ち、割れて飛び出したのでしょう。山越で暮らしていた犲が山守に入り、嗚山へ向かっています。」
「嗚山? というコトは。」
「はい。山越の北、輪の外から闇が噴き出しました。」
嗚山は山守の東北東、輪の中だが谷を下り進まなければ辿り着けない場所にある。
祝辺と祝辺の守を警戒なさった嗚山神が、輪の中における中立を宣言。それにより嗚山は中立地帯となった。
嗚山神は厳正中立を徹底なさるが、血を求める山守や山越の民を酷く嫌って御出でだ。
獣や隠は保護なさるのに問答無用で排除なさるので、嗚山は『呪い山』だとか『魂捨山』と呼ばれている。
因みに靄山隠は靄山の社憑き。
犲や犬、鳥などの隠で構成。抜群の機動力を誇り、『隠忍び』の異名を取る強者揃い。発案隠は樺で、初代『隠頭』でもある。
使わしめに出世したので辞職したが、今でも強い影響力を持つ。
当代タンは犲の隠で、鍛錬を怠らない武闘派。
統率力に優れ獣望もあるがチョッピリ奥手。名付け親で保護者でもある樺を、心の底から尊敬している。
幼少期は駆け出す度に『タンッ』と音がしたので、「タン」と名付けられた。
「嗚山社は何と。」
「社の考えは分かりません。けれど真直さまは靄山隠に『気を付けろ、あの闇は山守の呪い。動くなら急げ』と遠吠えで。」
嗚山神の使わしめ、真直は犲の妖怪。
美食家なので人肉に見向きもシナイ。にも拘らず、嗚山に迷い込んだ山守の民に嬲り殺され妖怪化。
山守と山越の民を嫌悪し、嗚山から問答無用で排除する。と言っても谷底に落して放置するダ・ケ。
「嗚山には妖怪の国守と、水を操る祝が居たな。」
「はい。」
山越の東に潜むのはテイがヨキ、いやルイの体を乗っ取る前だろう。継ぐ子だった時から狙っていたハズだ。
幾ら呪い祝でも、強い清めの力を生まれ持つルイには敵わない。
腰麻のアキが切り取った闇は三つ。山越の東と西に潜む『何か』がテイのモノなら、切り取られた闇は二つ。二つ? もっと在るだろう。
となると、他のも閉ざされた石室の中。どうすれば見つけられる。
嗚山の国守、クウは風を操る力を持つ。山守と山越を毛嫌いしており、祝辺の守でも風で切り刻む過激派。
国守だ、守るなら嗚山。他がドウなろうが『知った事じゃ無い』と外方を向く。
元は人だからなぁ。
木天蓼や鰹の燻製でヤル気を出すとは思えんし、困った。妖怪になる前は狩り人だから肉、いや酒。甘い木の実、蜂蜜はドウだ。
・・・・・・わかんニャいよ、どうしよう。