11-83 悪寒
白泉社での話し合いで、雷獣が落ちたのは山越。
社の司や禰宜、祝の話を聞く限り、西に潜む生物は仮死状態。東に潜む生物は得体が知れず、慎重な行動を取る必要があると判明。
白泉神の使わしめ、ケンケンは己を『隠れん坊の天才』と思っているがトンデモナイ。頭だけを草中に隠し、尾を隠さないのでバレバレ。
白泉神は『そんなトコロも好ましい』と御思いだが、隠密向きではナイので同行不可。
「そ、んな・・・・・・。」
隠れるのが下手、というより隠れられてナカッタと知り、呆然とするケンケン。
「洞に居る獣を探すなら、鼻の利く犲が良かろう。そうだ、靄山神に御頼みしてはドウか。」
使わしめをナデナデ為さりながら、白泉神が仰った。
「そうですね。」
渦風神の使わしめ、流もニッコリ。
霧雲山地の中腹、狩山と冰山に挟まれた靄山。
常に靄で包まれているが山の中はカラリとしており、風通しも日当たりも良い。その頂に御坐す靄山神は水滴の神。
霧雲山が水没せぬよう大泉神、白泉神と共に御力を揮い為さる。
靄山神の使わしめ、樺は犲の隠。白子では無いが毛が白く、他の犲よりも大きい。社の司は風と話す力、禰宜は氷を操る力、祝には水を操る強い力を生まれ持つ。
因みに冰山の標高は平良と同じ。頂に万年雪、山中に氷河がある。どんなに準備しても遭難するので、樵でも入山しない。
社は無いが山そのものが御神体とされ霧雲山、正確には霧雲山地で生活する人から畏怖されている。
狩山の標高は霧山や山越と同じ。
山中のアチコチに冷泉や温泉が湧き出ており、鉱泉塩を得るために狩り人や樵、忍びが水を汲みに来る。山中に多くの里や村が点在し、助け合って暮らしている。
祝辺の守キヨの出身地、山郷もその一つ。
「ごめんください。」
渦風神から賜った大札を首に下げ、シズシズと靄山に入った流。足を止めて御声掛け。
ほとんどの猫は夜行性で、狩りの際には嗅覚と聴覚を利用。自慢の御髯も根本が感覚鋭敏な神経で囲まれており、暗夜での行動に有用。
その髯が凍りそうなホド冷たい風が我儘ボディを包み、猫又の大妖怪をドギマギさせている。
「どちらさまですか。」
ヒョォっと強い風が吹き、流のシマシマ尻尾をピンとさせた。
「渦風社から参りました。渦風神の使わしめ、流と申します。」
声を裏返らせる事なく言えましたネ。
「白泉社からも伺っております。どうぞ、そのまま御進みください。」
吹雪で出来た道がドドンと、流の前に出来た。どうやらココを通れ、というコトらしい。
「はい、ありがとうございます。」
肉球が凍りそう、なんて言えないよぉ。
靄山の頂に建つ靄山社。
その離れで力を揮う三人とも、猫より犬が好き。爪で掻いたり襲ったりする獣が嫌いなので、シシの肉より鳥の肉を良く食べている。
流は使わしめなので狩る気は無いが、もしかすると・・・・・・。
靄山神の使わしめは犲。
犲は狩りが上手く、狙った獲物は逃さない。ニャンコは以外と筋肉質なのでイケルかも? いえいえ良く考えて。
流が猫汁の具になったと渦風神が御知り遊ばせば、間違い無く荒ぶられます。
愛猫家は一柱では御座いません。
ワンコもニャンコも同じモフモフ、犬猫やまと大戦なんて止めて! 中つ国、人の世の地形が変わってしまう。
「クシュン。・・・・・・悪寒がする。」
毛皮を着ていても寒い。いや、コレは違うヤツだニャ。