5-30 ある妖怪の企み
幸せになりたい、か。成すべきことを成せば、掴めただろうに。
霧雲山ほどではないが、乱雲山だって、強い力で守られている。幸せになろうと思えば、なれたのだ。それをフイにして、まだ求めるか。
「幸せになるために、何をする。」
「・・・・・・え?」
「何をすれば、幸せになれると思う。」
「それ、は・・・・・・コウ。」
「コウ?」
「コウが幸せをくれる。だから、コウが欲しい。」
ヒサは愚かだった。求めるだけ、欲するだけ。コウにはツウがいる。それなのに。奪いさえすれば全て、思い通りになると信じて、疑わない。どこまでも愚かだった。
「ゴロゴロさま。少し、気になることが。」
「その顔は。少し、なんてモノでは無いな。」
「はい。調べ、終わりました。」
ヒサは人、しかも子。仕置場を壊すどころか、出ることなど。ゴロゴロは思った。妖怪が、手を貸したのではと。
「ヤツ。悪意です。」
すべての霊山は、根の国と繋がっている。その中ほどに、妖怪の墓場がある。他の墓場と繋がっているが、霧雲山の墓場は、別。
霧雲山の墓場は、死してなお強い力を保つ妖怪たちが、獄に繋がれるように葬られている。入れるのは、祝辺の守だけ。
霧雲山、鎮野。境を守るためにだけ、作られた村。山守が手を出せない、唯一つの村。祝辺の守と組み、隙がない。
他の霊山は、隙だらけ。だから? 何か為出かせば、祝辺の守に仕える、平良の烏が動く。守の、恐ろしく強い力と共に。
悪意は、舐めていた。祝辺の守を、平良の烏を。そして何より、ゴロゴロの力を。
「コウ。その、気をつけて。」
「ツウ?」
「胸騒ぎがするの。ねぇ、コウ。きっと、必ず帰ってきてね。」
「もちろん。きっと、必ず帰ってくるよ。」
甘い、甘すぎる。熟れた木の実より甘い。独り身には、目の毒だ。ギュッと手を繋いだまま、見つめ合う二人。
『アレがコウか。二人とも、人の子のくせに力を持っている。策を弄さず、引きずり込むか。』
九尾をワサワサさせながら、舌なめずり。悪意は舶来種。コンと同じ九尾の妖狐だが、心意気は丸で別。
悪の限りを尽くし、国つ神の中で最も温和とされる、雲井神を激怒させた野弧だ。その企み、間違いなく質が悪い。