11-80 用心はして悔め
とつ守から羽を手渡され、考えを読もうとしたスミが首を傾げる。羽が無くても変わらず、とつ守の考えが読めない。
あれ? あれれ?
抜け落ちてから時が経っているのに、美しいまま保たれているが、ソコイラに落ちている鳥の羽と同じ。何の力も感じない。
・・・・・・オカシイぞ。
ゴロゴロゴロ、ピッカァ。ドォン。
「ヒィィッ。」
ザァァッ。ゴゴゴゴ、ドン!
「近いですね。」
落雷に縮み上がるスミを横目に、中断していた片付けを再開。みつ守は腹を押さえ、臍を隠している。
「ととっ、とつ守。」
「はい。」
ピッカァァ。
「ヒィィ。」
ホッホの羽をポイと手放し、頭を抱えるスミ。
「もう宜しいのですか。」
と言いながら拾い上げ、とつ守がニコリ。
「ヒャイ。」
「みつ守は?」
興味は有るが、今はソレどころでは無い。チラッと見てからブンブン首を横に振り、転がるように奥へ逃げた。
「とつ守、少し宜しいか。」
「はい、ひとつ守。」
スミを残して立ち上がり、懐に羽を入れる。
厚い雷雲からドッカンドッカン放たれる雷が、霧雲山のアチコチに落ちた。桶を引っ繰り返したような雨が降っているので、燃え広がる事は無いだろう。
けれど、あの辺りには確か。
「山越の外れ、ですね。」
ひとつ守がポツリ。
「はい。」
山越の東、輪の外に蠢く悪しいモノ。それは何かに閉じ込められ、迎えを待っているようだ。
山越烏の隠から聞いた話だが、岩の洞から生暖かい風がおどろおどろしく吹き、漂う闇を吸い込んでいるトカ。
「おや。」
とつ守が外を見て呟く。
「消えましたね。」
ひとつ守の目が鋭くなった。
ひとつ守、とつ守も何となくだが獣の気配が判る。雷獣と思われる生き物から、スッと光が消えたのだ。身構えるのは当たり前。
渦風神の使わしめ、流が大陸に殴り込み。じゃなくて渡航して講和を結んだので、天獄や地獄から仕掛けられる事は無い。
けれど悪しい何かが落雷と共に落ちた雷獣を取り込み、器に変えたなら大事だ。
「とつ守。知っている事、話せるダケ話してください。」
ひとつ守は恐れている。とつ守が祝辺を捨て、霧山に戻る事を。
祝社には数多の隠の守が居る。けれど鎮森に認められている守も、鎮森の民に認められている守も一隠。とつ守だけ。
草木の声が聞こえる隠は他にも居るが、話し合えるのも一隠。とつ守だけ。
とつ守が居なければ困るのだ。
祝辺は水に恵まれ、日当たりも風通しも良い。けれど気を抜くと根腐れを起こし、食べるものに困ってしまう。だから強く出られない。
「己を切り取り、人に植えた妖怪が居ました。」
「死んだ腰麻の国守、アキですね。」
「はい。四姫だったアキに出来た事、祝だったテイなら容易いでしょう。」
「ハッ。」
「ひとつ守。私は山越の東で消えたアレ、テイから切り離された何かに取り込まれたと考えています。」
「・・・・・・この事、ハッキリするまで伏せましょう。動く前に備えなければ取り込まれる。」
とつ守の目を見て、ひとつ守が言い切った。