11-77 怪獣の中身
山越の北、輪の外。
水脈に出来た洞で眠る一体の獣。その姿は異様で怪しく、どす黒い。禍禍しい闇を纏っているが、自我は保たれている。
「私は諦めない。いつかココを出て、もっと強い力を取り込むまで。」
祝辺の獄、壺に閉じ込められた山守の呪い祝テイ。その魂が蠢きながら、その時を待ち望む。
己を切り取り植え付けた器は気を失い、息を止めているが生きている。
「誰でも良い何でも良い。闇を、魂を取り込めさえすれば。」
仮に取り込めたとしても、テイが入っている壺は月の光をタップリ取り込み、力を増した粘土で作られた特注品。加えて、祝の力まで込められている。
チョットやソットじゃ壊れない。
「もう少し、もう少しだ。」
・・・・・・やっと力を失い、囚われたのに煩いわね。
どうすればテイを黙らせられるの。どうすれば? 祝辺の守でも消して無くせないなら天つ神、人に扱えぬホド強い力を生まれ持つ誰か。
そうよ、人で無くても強い、神のような何かが現れるまで待てば良いんだわ。
『ウロ、逃げよう。山守の外で生きるんだ。』
そうね、そうしましょう。
『ムナが死んでも良いのか。』
止めて、ムナを放して。
巫も覡も山守のために死ぬしか、殺されるしかなかった。でも、それでも守りたかったのよ。
ムナを社から出すと聞いて、雨乞いをすると決めたわ。なのにムナは、ムナは私の目の前で殺されてしまった。
山守の民に殺されてしまった!
『この手を取れ、ウロ。我に取り込まれても、その魂が消える事は無い。」
信じるわ、ヴァン。だから願いを叶えて。
『血が足りない。迷うな、奪え。』
空から落ちてきた獣だもの。力は有るんでしょうけど、どう見ても死にかけよ。
『首に食らいつけ! 生き血を啜れ。』
骸の血を吸えば死ぬの?
『死にはシナイが弱る。だから急げ、死ぬ前に奪え。』
ヴァン、忘れないで。私の願い。
『わかっている。』
ヴァンは私の願いを叶えてくれた。でも、ムナは戻らない。
死んでしまったもの、会えないわ。でも良いの。だって山守から、山守社から巫も覡も無くせたのだから。
テイ、呪い祝テイ。辛い思い、苦しい思いをしたのでしょうね。でも、だからって他の誰かに同じ思いをさせるなんてイケナイわ。
「祝辺が、祝辺が悪いんだ。」
ナゼそう思う。
「姿が他と違うから、他と違うから殺された。だったら他より良いのを、抜きん出るのを求める。それダケの事。なのに私は辛く苦しい思いを。」
愚かだな。
「来る、来るぞ。強い祝の力を持つ娘が。」
だから何だ。
「欲しい。欲しい欲しい欲しい、力が欲しい。」
ねぇヴァン、テイを消せる? もし消せるなら消しましょう。このまま待つより良い、そんな気がしてきたわ。
『そのテイに力を奪われ、この為体。』
テイタラクって、なあに。
『良くない姿、という事だ。』
そう。・・・・・・あの時、私
『言うなウロ。アレは油断した、気を緩めた我が悪いのだ。』