11-76 皆の力を合わせれば
全く知らなかったアレコレが隠や妖怪の口からポンポン出て、息をするのを忘れそうになる。
雲が言っていたのだ。ホッホは大陸生まれの鷲鵂。遠くからでも見分けられると。だから滝山と氷皐山、霧雲山の麓にも姿を見せた鷲鵂はホッホに違い無い。
「木菟。」
「あぁ。」
明るいウチに飛ぶ事も有るが、鷲鵂が飛ぶのは夜。
夜に生きる鳥が昼、飛ぶのはナゼか。夜は動かない生き物を、いつもと違う動きをする人を探している。いや見張っている。
「雲を。」
「いや、皆さま。」
木菟と鷲の目が見つめたのは使わしめではなく元、社憑きクル、フサ、シナ。
霧雲山に来る娘が誰なのか、隠の守にも分からないのだろう。だから祝辺の守より強い力を持つ祝、『守りの力』を生まれ持つ子が居る山を探した。
初めに目を付けたのが野呂、野比、小柄。
霧雲山の麓で暮らせるのは獣だけ。他からウッカリ迷い込む事は無いから、麓に居るのは中の人。
山守に行きたくなくて、死にたくなくて逃げ出した人だ。野比の祝が見ていれば助かるが、谷河の狩り人か忍びが通り掛からなければ助からない。
ホッホは霧山神の使わしめ。霧山の社の司には植えた物が伸び、育つのを早める力。祝には見えない囲いを張る力が有る。
継ぐ子の中には『先読』や『先見』の力を生まれ持つ者も居ると、いつだったか雲から聞いた。
もし霧山の誰かが良山に目を付け、霧雲山の外に出られる使わしめに探らせたら。
谷河の狩り人が通る道は幾つかあるが、その全てを調べ尽くしていたら難しかろう。けれど皆の力を合わせれば、きっと。
「山守社が山守の民を抑えられるのは一月。急ぎ整え、備えなければ。」
鷲の目に見つめられた谷河の狩り長が、コクリと頷き微笑んだ。
「谷河の社の司から、ずっと昔の話を聞きました。先見の力を生まれ持った子、タカは親に死なれ、谷山で暮らす伯父に引き取られました。それから祝辺の守となり、隠の守になったと。」
「タカの力、そんなに強くナイのかも。」
木菟が呟く。
「そう、だな。もし強ければ顔もハッキリ見えるだろう。見えたなら、思い浮かべたモノを読み取る力を持つ守が動く。」
隠の守でアヤシイのは今のトコロ、とつ守だけ。
「祝辺の守などマルの敵では無いわ。隠の守が束になっても、どんなに目を凝らしてもボンヤリとしか見えぬ。」
サラリと愛し子自慢、入りました。
「良山を発つ日は、これより二十日の後。急ぎ谷河社へ使いを出し、子を連れて出るよう伝えるが良いか。」
谷河の狩り長が問うた。
「ウン、そうしよう。」
茅野の長が力強く頷き、ニコリ。
「隠の世を通ると気付かれぬよう、心してコトに当たらねば。」
飯野神の使わしめ、ナガもニッコリ。
「良く見えぬが祝辺の守の匂い、声は判る。」
添野神の使わしめ、シバの目が光った。
シバは祝辺の守が大嫌い。
犬なので良く見えないが、匂いと声はバッチリ覚えている。人の守が霧雲山の統べる地の人の長になった今も、祝辺の守ギライは直らない。
「それは頼もしい。私は化けますので、宜しく。」
茅野神の使わしめ、ヤノの目もギラリ。
シバもヤノも、山守と祝辺が強い祝の力を持つ子を親や縁の者から引き離し、引き取る事を諦めてイナイと知っている。
「はい。私たちも力を尽くします。」
シナが言い切り、クルとフサがコクンと頷く。
翌朝、谷河の狩り人が子連れで出立。霧雲山を出た。