11-75 忍者もビックリ
飯野で生まれ、武田に攫われ東山に売られるも茅野に逃げ果せた。幸せな結婚生活を送るが娘を攫われ、守れず死んだタエの祖母。
茅野で生まれ、飯田に攫われ川北に売られるも添野に逃げ果せた。幸せな結婚生活を送るが娘を攫われ、守れず死んだタエの母。
添野で生まれ、豊田に売られ豊野に逃げるも捕まって、北山に売られた。釜戸の裁きの後、茅野に引き取られたのは祝辺の守を欺くため。
茅野から良村に預けられ、やっと落ち着いたタエ。
タエは大泉に引き取られる事が決まっている。
山守の呪い祝、テイは壺に閉じ込められて動けない。けれど祝辺の守は違う。『先読の力』を生まれ持つ隠の守が居るのに、祝社がタエを狙うのはナゼか。
他と違い母から娘、その娘へと女から女へ引き継がれる強い力だから。
どの娘に引き継がれたのか、判るのは母一人。女が生まれる度に求めても、差し出すとは限らない。だから産む前に、子のウチに迎えようと考えた。
大蛇神と黒狐神の御力により闇に落とされ、オッソロシイ思いをして更生した隠の守マホ。
己と同じ思いをさせる力を持つマホは力を揮い、他の隠の守に思い知らせた。
けれど中には諦めの悪い隠の守も居るようで、虎視眈眈と強い祝の力を持つ娘、タエを狙っている。
飯野神、茅野神、添野神の三柱は一年に一度、出雲にてコッソリ議られる。
力尽くで歪められ、転がり始めた辛い定めを変えるため。ボロボロに傷つき、壊れそうな魂を守るため。幸せを掴んでも指の間から零れ落ち、死んでしまう末を変えるために。
タエの代になって変わった、やっと変わった。このまま良村で暮らせば好いた誰かと契り、子を生し育て上げ、安らかに眠れるのでは?
けれどタエは霧雲山、大泉に引き取られる事が決まっている。
大泉は祝辺が、祝辺の守にも手を出せない山。もしトンデモナイ何かが起きても直ぐ、隣にある鎮野に逃げ込める。
鎮野は根の国に繋がっているので山守も祝辺も、山守社も祝社も手を出せない。
だからタエを末永く守れるのは、タエの幸せを守れるのは大泉だけ。だった。
「タエが望むなら、このまま良村で暮らせば良いと思います。」
良村の長、シゲが切り出した。
「ウム。がな、良山は大きいが良村の他に村は無い。となるとタエが見たアレやコレ、霧雲山での事だろう。」
人の姿に化け為さった大蛇神、ニッコリ。
「良村でナイなら霧雲山、大泉へ行く前なら野呂か野比。大泉から出たなら鎮野か。それより祝辺の、とつ守がアヤシイ。鷲鵂の隠が昼に飛ぶ姿を滝山と氷皐山に住む川亀が見ている。霧山神の使わしめ、ホッホさまでは?」
飯野神の使わしめナガ、キラン。
亀はノロマと言われますがトンデモナイ!
水棲のカメは昼間、陸に上がって優雅に日光浴を楽しみます。けれど敵の気配を感じると、目にも留まらぬ速さで水に飛び込みます。
中でもスッポンは特に足が速く、陸に上がってシャカシャカ逃げる速さは瞬間的に時速40㎞以上出るコトもあるトカ。
スッポンの誕生は二億五千万年前。
特技は鼻の穴だけ水面に出す事。グルメなので活きの良いモノなら何でも好き。チョッピリ攻撃的だけど甲羅を柔らかくする事で軽量化に成功。首だって長く伸ばせるヨ。
『ガブリと噛んだら放さない』なんて言うけど、水に入れれば放します。
それは扨置き、水が豊かな霧雲山には多くの川亀が生息。つまり他の亀と違って鱗板は無いが、忍者もビックリの情報収集能力と高い身体能力を有するのだ。
「で、どうする。犬の集まりで聞いた話だが、谷河の隠が霧雲山の麓で、鷲鵂の隠を見たらしい。」
添野神の使わしめシバ、キリリ。
「狐の集まりで『山守は社に睨まれ、一月は動けない』と聞いた。山守神の使わしめが言うんだ、真だろう。」
茅野神の使わしめ、ヤノが微笑む。