11-72 山が動いた
霧雲山を守っている祝辺の守でも、野比や野呂には手を出せない。どちらも忍びを遣って、朝から晩まで山守を見張っている。
山守は二つ。山守と祝辺に分かれているが、同じでは無い。
山守は日当たりが悪く、祝辺の助けが無ければイロイロ困ってしまう。その祝辺は霧雲山の外に出られないので、忍びが居ないと困る。
つまり山守は祝辺に逆らえず、祝辺は野呂と野比に強く出られないのだ。
「山守社が動かないなら、オレらで祝を選ぼうぜ。」
山守の長に、若いのが迫った。
「誰を選ぶんだ。」
「そりゃ長、分かるだろう? 継ぐ子だよ。」
「継ぐ子って。」
祝の力を生まれ持つ子を社に集め、守り育てているのだ。オイソレとはイカナイ。
「祝が居なきゃオレたち、困るんだ。」
「生贄がイケナイってなら人柱、人柱がイケナイってなら生贄が要る。そうだろ?」
「あぁ、そうだ。要るんだよ長。」
山守の民に詰め寄られ、タジタジ。
ケッ。何が生贄だ、人柱だ。
山守の民は誰かを縛って吊るし上げ、死ぬまで責め苛めたいんだ。嬲り殺して楽しみたいダケだろう。
雨乞い? 祝辺から流れ出てるのを汲め。日乞い? 諦めて山越に引っ越せ。病だ? 食いモンが足りねぇんだよ。見りゃ判るだろう、ガリガリだぜ。
子が生まれない、人が増えない? 当たり前だろう良く見ろよ。
「山守社から継ぐ子を攫うのは難しい。」
おや、解ってるじゃナイか長。
「では祝辺、祝社から攫おう。」
はぁ?
「何を言う、死にたいのか。」
そうそう、諦めな。
「ウッ。では・・・・・・深山、白泉。そうだ野比、野呂はドウだ。」
ナニイッテンノ。
「それは良い。」
良くナイわ、谷に落すぞ!
山守の民にも良い人は居る、と思う。けどよぉ、ドウなんだコレ。
野比の祝には先見の力、社の司には水を操る力が有るんだ。どちらも強いぞ、木菟も居る。野呂だって手強いぜ。
長の家に忍んでいた鷲の目の横に、若い木菟が近づいて目をパチパチ。どうやら話が有るらしい。
心の中で毒づいていた鷲の目が目をパチパチ、クイッとしてニコリ。二人仲良く、屋根から木へ飛び移った。
木菟は夜行性だが、研修中は昼勤務。昼勤務の若い木菟は皆、忍びの卵デス。
氷吹山と氷皐山で実施される最終試験に合格すれば正式採用され、華華しく夜勤デビュー。
フラフラになるまで働けます。オヨヨ。
野比社の御偉いサン、忍びの待遇を改善しましょう。
いつか『暗黒一覧表』に載るよ。忍び労働組合に訴えた木菟に、隠り世の『白洲で会いましょう』って言われちゃうよ。
デカデカと『勝訴』と書かれた紙を手に微笑む木菟と、隣で微笑む組合長の写真がババンと『隠り世新聞』の一面トップを飾っちゃうよ。
それは扨置き、所変わって鎮森。
鷲の目と木菟を待っていたのは天霧山の忍び、雲。矢弦の祝に仕える隠密部隊で全員、見えないものが見える強者。
「やぁ鷲の目、久しぶり。」
前に良山で行われた、忍び会議で会いました。
「あぁ雲、久しぶり。」
鷲の目や雲に限らず、忍びは真の名を明かしません。
「山が動いた。」
本当に山が動いたのではナク、暗号みたいなモンよ。
野呂社が茅野社にタエの受け入れを申し込み、茅野社から大蛇社へ使いが出されマシタってネ。