11-71 野呂が選ばれた理由
野呂は野比や白泉より小ぶりだが、三日月湖と共に滝山、溪山、氷吹山、氷皐山に囲まれている。
『何だ盆地か』と思ったアナタ! 甘い。甘すぎます。
滝山は其処彼処に滝があり、足が竦むホド恐ろしい山。激流に吞まれたら最後、獺でも溺死するため? 忍びの訓練や試験が頻繁に行われている。
溪山はアチコチで糸が繋がるように水が注ぎ込む、深い溪しかない山。溪から吹く風に巻き込まれたら最後、猛禽類でも落命する事で有名。
滝山同様、頻繁に忍びの訓練や試験が行われてマス。
氷吹山は氷のように冷たい風が刺すように吹き、熱を奪う恐ろしい山。日が昇ると淡く光り、濃霧が発生。満月の夜に細氷が見られる。
ナゼか出で湯が多く、忍びに大人気。
氷皐山は清く透き通り、純白で穢れの無い沢がアチコチに流れる山。沢の表面が白く輝いて見える事から白い頭骨、死体を思わせ・・・・・・ブルルッ。
霧雲山の中で『遭難したら助からない山』不動の一位を誇る名山である。登山する前に装備を点検し、決死の覚悟で向かいましょう。
天然の要塞に囲まれている野呂は、命知らずの山守でも二の足を踏む山。
珠の湖から目指せば、滝山と溪山から流れ出す水に押し流される。霞の湖から野比と滝山の間を抜けても、滝山と氷皐山の間で凍えてしまう。
なんとか谷を進んで三日月湖を目指しても、沼地に足を取られて力尽きるダケ。
白露湖と珠の湖の間を抜けて溪山をグルッと回っても、氷吹山との峡で凍死するか溺死する。
一度、霧雲山の麓に下りればドウか。
毒霧や濃霧の中を手探りで進み、中腹まで辿り着いても難しかろう。氷吹山と氷皐山の間を抜けなければ三日月湖まで出られない。
三日月湖をグルッと回って沼地に出ても、四つの山から吹く風にグサグサ刺されて急速冷凍。冷たく重い泥から足を出そうにも、熱を奪われた体は思うように動かない。
均衡を失えば沼地に沈み、野呂を前にして息絶えるから。
「さぁて、進めますか。」
タタが歌うように切り出した。
「楽しそうですね、祝。」
社の司、ミオが苦笑い。
「そうかい? うん、楽しいね。」
ニコッ。
山守の呪い祝、テイが力を奪われ閉じ込められた。
獄の歪みや裂け目に気付いた祝辺の守が、それら全てを整え塞いだ。今すぐドウコウなる事は無い。
とつ守は何かを企むも良山、良村の人にも犬にも勝てぬと解り、やっと受け入れ『見守る』と決めたのだ。
動くなら今! この時しかナイ。
「茅野社にタエ、良村に預けられている娘の受け入れを申し入れる。」
「はい。」
「野呂に受け入れる娘は大蛇神の愛し子と仲が良い、と思う。傷一つ付けず、泣かせる事なく迎え入れよう。」
「そうですね。」
得意気なタタを慈愛に満ちた目で見つめるミオは、若く見えるが二児の母。倅も娘も独立し、孫も生まれた。
個性的なタタを大きな倅だと思い、温かく見守っている。
タタは祝女と祝人の倅で、母は己を産んで直ぐ死亡。愛妻の忘れ形見を宝のように慈しんだ結果、個性的に育ってしまった。
倅を支えるには出世するしかナイと考えた父は努力を重ね、若くして野呂の祝人頭に就任。現在に至る。
心を読め、読心術にも長けているタタは孤独だった。けれど社の司と祝人頭に鼓舞激励され、真っ直ぐスクスク成長。
独特だけど元気です。