11-69 ヤダ怖い
山守。昔は山守山の頂にあったが、イロイロやらかした事で地がパカンと割れ、逃げるように頂から離れた村。
コトあるゴトに祝を、やれ『生贄だ』『人柱だ』とバンバン殺し続ける。
で、村人が病や何やでバタバタ死ぬのを『祝の祟り』だの『祝の呪い』だの言い出し、出来たのが祝辺。
ビビリながら作った祝社は、控え目に言ってボロボロ。
ひとつ守は思った。山守の民は殺した祝を『祀る気も、崇める気も無いのだろうな』と。
それでも人の守として留まり、セッセと整えたのは山守のためではナク祝辺のため。
頂を守りながら食べ物を多く作り、蓄え、豊かにすれば血を流さずに戦えるから。
「祝を選ばないだぁ?」
ドコのゴロツキだ。
「社の司は、いや山守社は民を殺す気か。」
なぜソウなる。
山守の頂は広く、平たかった。
地がパカンと割れ、頂から離れる事を選んだのは山守の民。社の司が止めるのを聞かず、鎮森の手前に山守社を移した。
地が割れる前の四分の一になった山守は日当たりが悪く、思うように作物が育たない。祝辺からはドバドバ噴き出すのに、山守では川も泉も涸れ果てた。
鎮森には泉も沢もあるが、森に入れば戻れない。だから祝辺から流れ落ち、出来た川に汲みに行く。
西の崖へ勢いよく流れるので、気を抜けばアッと言う間に溺れ死んでしまう。
「社を潰せ!」
「継ぐ子を殺せ!」
「ヒィハァ!」
ヤダ怖い。
食べ物が足りず、水を汲むのも命懸け。
山守神の御怒りを鎮めるためには生贄が、恵みの雨を降らせるには人柱が要る。
山守社には巫も覡も居ないのだから、祝を捧げるしかナイ。なのに『祝を選ばない』と、山守の人の長である社の司が言い切ったのだ。
村長が何を言おうが、ソレを受け入れられるワケが無い。
祝が居なければ困る。山守の民から生贄や人柱を出す事になればギスギスするし、他から攫おうにも通す筋が無い。
『山守のために死ね』と言われて、『はい』と答える人は居ないのだから。
「山守は国では無く、貧しい村。祝辺の助け無くして生きられぬ村。」
山守の社の司が、低い声で言い切る。
「山守の呪い祝は、まだ残っています。私たちは祝を、継ぐ子を守りたい。だから消えて無くなるまで選びません。」
「社が在るのに祝がイナイなど、神が御許しに」
「山守神から祝を選ばぬ御許し、いただきました。」
真っ赤な顔で叫ぶ山守の村長を睨みつけ、黙らせてから伝える社の司。
長には見えないが、その後ろでシズエが九尾をフリフリしながら微笑んでいる。
「山守山には山守社と祝社、二つの社が在ります。ウチに祝が居なくても困りません。霧雲山を守るのも、統べる地を守るのも祝辺の守。霧雲山の統べる地の長は人の守。霧雲山、山守の頂に祝社が在れば守られるのです。」
長が尻餅をつき、アワアワしながら後退り。
「幾度でも言いましょう。山守神は『生贄も人柱も要らぬ』と仰せです。長、聞いていますか。」
「ヒャイ。」
社に押し寄せた山守の民は明くる朝、尻を押さえながら飛び起きる事になる。山守神の御力でもテイの呪いでも、痔瘻でも痔核でも切痔でもナク、筋肉痛で。
腰を浮かせながらプリプリと後退り、シズエの妖術でオッソロシイ何かを見て腰を抜かし、転がるように駆けたのが原因。
何を見たのかって? オッソロシイ何かです。