11-68 心配事
祝辺から『祝の骸を焼き、骨を鎮森に葬る』と聞かされ、山守社の皆が驚いた。てっきり骸が戻ると、帰ってくるモノだと思っていたから。
祝から切り離されたテイは壺に閉じ込められ、祝辺の獄に繋がれた。
隠の守が目を皿にして捜し、見つけた歪みや裂け目。その全てに手が加えられ、前より強くなったのだ。
壺から出られたとしても、獄からは出られない。
山守と祝辺から揉め事が無くなり、穏やかになった。そう思ったのは山守社の者だけ。
祝辺の者は地に開いた大穴に隠れ住む何かがドコに居るのか、どんな力を持つのか。禍を齎すモノなら清められるのか、清められぬなら閉じ込められるのかナド、いろいろ考え動いている。
「騒がしいな。」
「あぁ。」
夜勤明けの鷲の目と、勤務明けの木菟が苦笑い。
山守も祝辺も隠や妖怪の目が光っている事には気付いているが、見張られている事には気付いてイナイ。
忍びが忍んでいる事を気付かれるワケがナイって? それはソウですが違います。
野比や野呂を信じているワケでも、忍びに慕われていると思い込んでいるワケでもアリマセン。忍びを、山越烏や平良の烏と同じように思ってマス。
全く違うのにネ。
「ヨッ。今、帰りかい。」
にこやかに現れたのは天霧山の雲。矢弦社の祝に仕える忍びで、見えないモノを見る事が出来る。
「そうだよ。」
木菟がニコリ。
「野比の山で話さないか?」
鷲の目が野呂では無く野比の山を選んだのは、野呂には心が読める祝が居るから。
「良いよ。」
三人の忍びが仲良く、険しい山をヒョヒョイと下りる。
霧雲山の頂は山守、中腹には野比や野呂など。麓は霧が濃すぎて、獣にしか暮らせない。
山守や祝辺から逃げた人が隠れ里を作ったとか、隠や妖怪が暮らす村が在るとか言われているが大嘘。根の国へ続く道とか、毒霧溜や掃き溜めならアチコチに。
だから麓に近づくのは、死を望む者だけ。
「木菟、眠いだろう。悪いね。」
「良いよ。で雲、何を掴んだんだい。」
「山守の長がヨキの次の祝を、テイが消えて無くなるまで選ばない事を受け入れた。」
「へぇ。」
木菟も鷲の目も、山守社が祝を選ばない事は掴んでいた。けれどソコまで掴んでナカッタので、とても驚く。
「驚かずに聞いてくれ。」
雲が声を潜める。
なんてコッタイ。
山越ってダケでもアレなのに輪の外、地の中にある洞に隠とも妖怪とも違う生き物が隠れ住んでいる。今は眠っているが、いつ起きるのか分からない。
確かめようにもソコまで辿り着くには、ずっと息を止めて水筋を。それも流れが早い水の中を、縫うように進まなければイケナイなんて。
その生き物は日暮れに動き出し、水では無く地の上に雷を放てる? なにソレ怖い。
・・・・・・どうやって水筋を進んだんだろう。
魚じゃなけりゃ亀、獺か。真っ暗な洞で生きられるんだ、どちらも違う。となると蝙蝠、は泳げナイよな。いやソレよりも。
「これから良山へ行き、大蛇神に御伺いしようと思う。」
雲は木菟や鷲の目から聞いた話も御伝えする気だ。
「なぁ。山守に祝が居ない事、山守の皆が受け入れたのかな。祝辺に乗り込まなきゃ良いけど、どう思う?」
木菟に問われ、雲と鷲の目が見合う。
「とつ守がさ、悪そうな顔してボソッと言ったんだ。『荒れるな』って。」