11-67 その身は滅んでも
山守の行いには、いつも困らされている。幾度も取り潰そうと考えたし、『山守社を山越に移しては』なんて話も出た。
山守神は生贄も人柱も『要らぬ』と仰せなのに、やれ『生贄だ』『人柱だ』と大騒ぎして連れてくるから。
山守の民は祝を、テイに乗っ取られた祝に従う。
同じ霧雲山で暮らす人を、他とは違う力を持つ人を攫うように連れ去り、苦しみながら死ぬ姿を見て喜んでいるようだ。
『胸がスッキリして、気持ちが良くなる』とか『心のモヤが晴れ、落ち着く』とか言って。
社の司や禰宜、継ぐ子たちにも止められない。テイから祝を守ろうと力を尽くしても、スッと奪われグニャリと歪む。
テイは呪い祝。呪いだと判っているのに清められず、幾人もの祝が命を落とした。
「やっと終わったのだ。山守に帰し、穏やかに。」
そんな事、出来るのか?
「呪い祝テイは、まだ残っています。」
そう。壺の中に閉じ込めたダケで、まだ残っているのだ。消えてナイし、消す術も無い。
「あの壺とて、いつまで耐えられるか分からぬ。」
パリンと割れる、いや罅が入る前に気付くだろうが。
「あんな姿になるまでテイと戦い、死んだのだ。山守に帰し、眠らせたい。」
私とて思いは同じ。けれど今のままでは揉め事が起きた時、収める器が・・・・・・。
「壺は残り二つ。テイを閉じ込めた壺に罅が入っても、闇の力を持つ隠の守が力を合わせれば入れ替えられる。」
全て使い果たせば?
「野比と野呂の祝に出来た事。祝辺の守にも、出来るだろうか。」
野比の祝には先見、野呂の祝には心を読む力が有る。どちらの力も祝辺に。
けれどソウでは無い、違うのだ。
「山守の祝として死んだのだ、祝辺に迎える事は出来ぬ。けれど山守に戻せばテイが出た時、また取り込もうとするだろう。」
骨になっても、話せなくても。
祝辺の守が集まって考えと述べる。それを黙って聞いていた守の一人が、ユックリと顔を上げた。
「皆さま、お聞きください。」
とつ守が微笑み、切り出す。
「草木が『地の下に大穴が開いた』と知らせてくれました。少し前から鎮森で地が凹むと御伝えした事、覚えて御出ででしょう。」
「それが何か。」
人の守に問われ、頭を抱えたくなったが耐えた。
「水の力は強い。沢を川に、岩を石に。水筋が太くなれば石が落ち、洞が出来るでしょう。ソコに何かが住み着き、眠っていたら。ソレに気付いたテイが己を切り取り、植えつけていたらドウです?」
ザワッ。
「腰麻のアキ、妖怪の国守に出来た事です。テイにも。」
ザワザワザザワッ。
「輪の際か外、山越の地に『雷を出せる何か』が隠れ住んでいる。私は、そう考えます。」
「だとして、今は。」
「いいえ今です。もしテイが力をつけ、その何かから力を奪えばドウなるでしょう。私なら『新しい器では足りぬ』と、己を追い詰めた『祝の骨を使えば動ける』と考えます。」
他の守も同じ事を考えたのか、顔が真っ青だ。
「テイに乗っ取られた祝は多く居ます。けれど追い詰め、閉じ込めた祝は一人。雨が降る前に骸を焼き、鎮森に手厚く葬りましょう。その身は滅んでも、苦しむ魂を救い続ける。そう思われませんか、皆さま。」
とつ守は他の守と違い、鎮森との繋がりが強い。鎮森の民と心を通わせ、遠く離れた地で起きた事を伝え聞く事も出来る。
その守が『鎮森に埋めよう』と言うのだ。
「とつ守の考え、取り上げ用いようと思います。皆さま、宜しいか。」
人の守が問うた。