11-65 嫌でも動いてもらうぞ
どどっ、どうしよう。落ち着け、落ち着くんだ。
「ひとつ守。大蛇神が御越し遊ばしました。」
ヒョエッ。
「イま行く。」
声がコロン。
・・・・・・話には聞いていたが、ココまでの力を持つとは思わなんだ。
『山守に関わらない』野比、『祝辺に人を送らない』野呂。どちらも忍びを送り遣わし、山守と祝辺を探り見張っている。
大泉や鎮野もオソロシイが、コチラもナカナカ。
「手を出すなよ。」
ビクッ。
「落せば割れるぞ。」
「はィ、キをつけマス。」
声はコロコロ転がすが、器はシッカリ持っている。
月の光を蓄えた粘土が取れるのは闇夜だけ。コレを割ったら、次の闇夜まで待つ事になるが・・・・・・。
「壺も蓋も三つづつ。テイを閉じ込めた後、どうする。」
「はイ。祝辺ノ獄ニ、他かラ離しテ置キまス。倒レ無いヨウにシッカと、平たク大キな板ニ乗せテ。」
ゴクリ。
「ホウ。で。」
「先見ノ祝ト先読ノ祝ガ祝辺ニ、ゴクリ。いつの日か清メと守リの力を持ツ祝が生まレ、祝辺ニ逃げ込ムと。」
目を白黒させながら、ひとつ守が言い切った。
「隠の守には清め、守りの力を持つ者も居ろう。なのにナゼ待つ。」
ソレハ、ソノ。
「愛シ子」
「断る。」
デスヨネ。
フッ。ひとつ守は隠が良いとも言うが、ハッキリ言って甘い。
大蛇神は愛し子を守るため、牙滝社を御出に為られた隠神で在らせられる。少し考えれば解ろう。
鎮野と大泉を守るためなら動かれるが、山守が崩れても捨て置かれるわ。
「荒れるな。」
とつ守が空を見上げ、呟いた。
「ザワザワ、ザワザワザワ。」 キヲツケテ、オオアナガヒライタヨ。
「大穴?」
「ザワザワザワ。」 チノシタニアルンダヨ。
「教えてくれて、ありがとう。」
「サラサラ。」 ドウイタシマシテ。
十代祝辺の守は草木の声が聞こえる隠で、鎮森の民に寄り添っている。霧山社の継ぐ子だったが九代祝辺の守に望まれ、祝社に入った。
因みに九代祝辺の守は先読の力を持つ元、継ぐ子。とつ守を祝辺へ迎えた事で親代わりとなり、隠になっても世話を焼いている。
「さぁて、動くか。」
鎮森の民が気付き始めた。祝辺の獄に手を入れねばドウなるか、隠の世に届けばドウなるか伝えよう。
嫌でも動いてもらうぞ、人の守。
「ん、この感じ。」
屈んで掌を土に当て、ジッと待つ。
「近いな。」
がオカシイ。輪の中に雷が落ちたのは、ずっと前の夜。なのにナゼ地を伝い、ビリビリするんだ?
「外か。」
輪の外なら、いや待て待て。霧雲山には大きな湖が多いが、山守には・・・・・・。
「地の下にある大穴。」
水は底に溜まる。霧雲山は水の山、水筋がアチコチで繋がり、大きな流れとなって噴き出している。
大穴の上に空きがあって、雷を出せる何かが住み着いていたら。
「急ぐか。」
テイを引き剝がし、地の中を調べなければ。