11-64 祈りが呪いに、願いが禍に
テイの魂を封じ込める壺が三つ、出来上がった。狙った獲物を間違えず、シュポンと吸い込む優れ物だ。
「大蛇神。野呂山で、呪いを受けた鳥を食べました。」
「山守、いや山越か。テイは己を切り取り、植え付けたのだろう。山越の谷で死んだのは、他から山守に連れてこられた人。思いが呪いに変わり、戻れないと気付き目指したのが野呂。白露湖へ飛べば輪から外れ、三日月湖も見える。野呂の上も通るからな。」
『呪いを受けた鳥を食べた』と御伝えしたダケなのに、凄い! としか言えない。
「獄が歪んだか、祝辺に蠢く何かが動き出そうとしているのか。・・・・・・急がねば。」
ウチの祝も言ってたな、『急がねば』と。野呂に戻ったら御伝えしよう。
にしてもココ、良いなぁ。肩も背も軽くなって、翼の先までピッカピカ。出で湯に浸かったみたい。
「私は、これにて。」
ペコリとしてスススと下がり、社を通って野呂社へ。
山守のテイが捕らえられた。その知らせはジワジワと鎮森に広まり、隠に成り損ねて彷徨う魂を揺さ振る。
「聞いたか。」
「あぁ。」
山守に目を付けられ、引き摺るように連れてこられた人たち。雨乞いや日乞い、病や何やを抑える力なんて無いのに求められ、死ぬ。
雨が降ったり日が照る事は稀に有るが、病や地崩れをドウコウ出来るワケが無い。どんなに祈っても願っても。
残された骸の扱いは二つ。望むようになれば葬られ、出来なければ鎮森に投げ捨てられる。
葬られても捨てられても同じ事。恨み辛みを募らせて闇堕ちするか、呪いに縛られ苦しみ悶えるか。
骸が山守にあっても、その魂は鎮森を彷徨い続けるのだ。いつまでも、ずっと。
「山守の地を腐らせても、直ぐに戻しやがる。」
「神サンよ、そんな力が有るなら助けてくれよ。」
山守の民は己と守りたい人を守るため、生き残るためにテイの手足となって連れ去る。身代わりにされた人たちは死に、その魂は鎮森に囚われたまま。
ピリッ、ピリリッ。
「またか。」
ボコッ。
「オッと。」
地が凹み、木の根が顕になった。
「聞いたか、祝辺の獄が歪んだぞ。」
「らしいな。」
祝辺の獄に入れられるのは人だったり隠だったり、生き物に憑いた何かだったりイロイロだが、その全てが消えて無くなるワケじゃ無い。
幾年も責め苦を味わい、何も考えられなくなって融ける。獄と合わさって。
祝辺の獄が凸凹しているのは、その壁や床が他とは大きく違うから。
祈りが呪いに、願いが禍に。光を闇が呑み込み、望みを絶たれた生き物が見るのは己。全てが暴かれ、理を悟り知る。
「外の崩れがココまで届くとは。」
「ソロソロかな。」
鎮森は山守をグルッと囲んでいる。接しているのは鎮野、大泉、平良、そして山越。
輪の外で何か起きているのか、ドコにドレだけ何が有るのか、どうすれば収まるのかも知っているが言わない。
山守が滅びても、誰も何とも思わない。
御山の頂を守り清めるのは祝辺、輪を保つのも祝辺。人の守が居なくなっても隠の守が居る。隠の守は何をしても、何が起きても逃げられない。それが祝社の隠。
「いつ気付くだろう。」
「隠の世には届かないから、すこし先だろうよ。」
クックック。
「境からコッチなら手出し出来ない、いやシナイ。」
グッフッフ。
テイは殺し過ぎた。人だった時も、死んでからも。