11-63 お届け物です
地が裂け、山守と祝辺に分け離された。
山守にも泉はあるが、祝辺に比べれば少ない。祝辺の泉は勢いが良く、水がドバドバ噴き出している。
「ピーさま。この鳥、三日月湖から飛んできたと。」
「ワカラン。がな、呪いを受けた小さな鳥が山守から、ソコソコ離れた野呂まで飛べると思うか?」
「難しいでしょうね。」
「水に恵まれている祝辺の、祝辺の守にしか出入り出来ぬ獄。水から水へと考えれば、どうだ。」
山越へ逃げた誰かが足を滑らせ、谷底に落ちた。
直ぐには死ねず苦しんで、山守の祝を呪う。呪いに食われて身動き一つ出来ず『鳥になりたい』とか『鳥になれたら』と願えばドウなる。
その誰かが祝の力を持っていたら。
ピーさまがゴックンされたのだ、ソレは無い。けれど、この鳥は呪いを纏っていた。
「呪いが宿った木の実を啄み、水筋の上を飛べば。そう、そうだ。」
山越から白露湖へ、珠の湖から三日月湖へ。それなら野呂を通る。
「この鳥を初めに見つけたのは、ピーさまではアリマセンね。」
「野呂神に御教えいただいた。」
当たりだ!
「フッ、フフフフ。」
野呂は祝辺に人を送らない。ウチは社を通さなければ、どんなに困っていても受け入れない。だから考えた。
鳥になって助けを求めれば、いや違う! 違う違う違う。
「合わん。」
山守のテイが、いつ獄に入れられたのか分からない。けれど、少なく見積もっても六日。いや十日は経っているハズ。
「急がねば。焼きます、今から焼きます。壺を焼きますよ。薪と藁、泥も忘れずに。」
継ぐ子には粘土で作った壺、祝人には薪や泥、祝女には藁を持たせ、村外れにある焼き場へ。
藁の上に土器を置いて薪で囲み、蓋をするように薪を被せて藁を被せ、その上に泥を薄く塗ったら三人で火をつける。
だんだん火が回ってくるから、衣が焼けぬよう離れて見守る。
風にも気を付けなければ危ない。すっかり焼けて、火が消えたら焼き上がり。
「良い感じに焼けたな。」
冷めるのを待って取り上げ、罅や割れが無いか確かめる。
「清めの水を。」
目で見て終わりじゃ無い。水を入れて漏れなければ、キチンと確かめられない。
「・・・・・・うん、皆も確かめておくれ。」
ポコポコとかプチプチとか聞こえたら、その器は使えない。
テイをスポッと入れ、閉じ込めるのだ。ほんの少しでも開いていたら、ソコから出てしまう。だから皆で確かめる。
焼き上がりを見て、水を入れて確かめてから耳をすませる。焼く前の器を一つづつ継ぐ子に持たせたのは、大人より耳も目も良いから。
五つのうち、音がしたのは二つ。残った三つを割れぬよう、藁を入れた箱へ。
野呂社で壺が入った箱を布で包み、結び目を咥えてフワリ。社を通って大蛇社へ。
「ごめんください、お届け物です。」
包みをソッと下ろし、声を掛ける。
焼きあがった壺を持ってきたのは、尾被ではなくピーだった。どちらも隠だが『割れ物を運ぶなら』と、体が大きいピーが選ばれたのだ。
「ホウ、もう焼けたのか。」
「大蛇神!」
出迎えは使い蛇か、愛し子が飼っている犬だと思っていたピー。慌てて平伏し、プルプル。
「月の光を蓄えた粘土で作り、焼き上がった壺を御持ちしました。御納めください。」