5-28 決心
ヒサの体は仕置場にある。魂だけが沈められ、苦しみ続けている。
壊された仕置場は、直された。何をどうしたのか、分からない。しかし、壊されたのは一か所のみ。両の手足を縛り、太い柱に括りつけられている。
「フクさま。ヒサは、生きているのでしょうか。」
「えぇ、今は。」
魂を抜かれたヒサは、暴れない。というより、動けない。そう遠くない日、死を迎える。
「サエ、忘れなさい。他にもいます。私たちに、出来ることをしましょう。」
「はい。」
「強くなったじゃないか、フク。」
「ありがとうございます。」
「フム。」
「気に病むな。」
「フクは悪くない。」
子は宝。縁あって、乱雲山に来たのだ。出来る限り、力になった。厚い雲に覆われているが、乱雲山は豊かな山だ。飢えず、凍えず、幸せに暮らせる。
セイもヒサも、歪みすぎていた。それだけである。他の子たちは、真っすぐ育っている。何に優れているのかを知り、伸ばし、生きている。
難しいことではない。助け合う、それだけ。それだけのことなのに、出来なかった。
ただ、求めるだけ。ただ、奪うだけ。いじめ、従わせ、罵る。選ばれた子だと、思い込んで。
違うのに、認めなかった。認めようとしなかった。認めたく、なかったのだろう。
妖怪たちは見ている。いつでも、すぐ、そばで。妖怪たちは知っている。人の弱さを、愚かさを。妖怪たちは信じている。子の輝きを、人の強さ、優しさを。
だからこそ、許せなかった。祝を傷つけ、成り代わろうとしたヒサを。
山を掌るのは、神。神に使えるのは、妖怪と祝。力を合わせて、守っている。山で生きる、すべての命と魂を。
祝とは、誰にでも務まるものではない。清らかな心と魂を持ち、授けられた強い力を、正しく使う。
溺れることなく導ける人など、少ない。その祝に、牙をむいたのだ。
子の家では、話し合いが行われていた。それぞれ、どんな事がしたいのか。何が出来るのか。
誰だって幸せになりたい。しかし、求めるだけでは決して叶わない。悪い例を、間近で見てきた。人のふり見て、我がふり直せ。
「オレは、争いのない村を作りたい。そのために、この山に来た。」
子の家で暮らす子らは思った。この人に、コウに付き従おうと。