11-59 血を流さずに戦うため
大蛇から南へ行くのを許されてから、付き合いのある国を通してイロイロ調べた。
良村は子より大人が少ない。だから一人でも居なくなれば、それだけ守りが薄くなってしまう。
親から託された宝を慈しみ育て、大人になるまで守り抜かねば!
早稲の生き残りだ、言われるまま多くの命を。
早稲に奴婢は居ないが『早稲の他所の』人と呼ばれ、酷い扱いを受けてきた。
剣も弓も扱えないのに戦場に放り込まれ、己が死んだら思い人を、子を頼むと言い残して死ぬ。
何とか戻れても、守りたかった人が冷たくなっていた。なんてコト当たり前。
早稲から連れ出せた子は覚えている。
忘れたくても忘れられない、死ぬなんて有り得ない。だから他と結ぶ時、これでもか! というホドいろいろ調べ尽くす。
遠く離れた南の地、目と耳が足りないから出来るだけ多く集める。血を流さずに戦うために。
早稲と風見が確かめた事も聞けたから、信じられる話さ。
明里の長は人だが王は神、それも隠神で在らせられる。人と話せる赤い目をした白い犲が王に仕えているが、祝や妖怪の国守は居ない。
浦辺の港が整えられ、沖に舟が出るようになった。動きがオカシイ舟が海から松川へ入るが、それっきり。
試しにセンがカノシシの鞣革をエサに近づき、浦辺を軽く調べて回った。
人と、人だと思う何かが暮らしていると聞いたノリが、ノリコを連れて向かって判った事は四つ。
松田の縄張りだった地が全て明里となり、大王は悪いモノを奪い、消して無くす力を持つ悪取神。
元は御犬社の祝で、里を滅ぼした松田を耶万に滅ぼさせるために死んだ。
明里は隠の国で、力を持たない合いの子が多い。
他の地では生きられない、生き難い人を多く受け入れている。
良村の大人が集まり、これからの事をジックリと話し合って決めた。手始めに商いを通して浦辺と結び、見極めてから明里と結ぶと。だから嘘では無く真だ。
今は、良村と明里に付き合いは無い。
「浅木、良那、岸多、近海も明里とは結んでイナイ。早稲は社の司が動いている。長や臣は気付いてナイが、狩頭は気付いている。確かめる気も動く気も無いな。」
シゲたちは早稲を出たが、カツも同じ『早稲の他所の』人。
好き嫌いに弱み、強み。黒子や痣、傷跡の場所まで知っているのは顔が潰れても骸で判るよう、互いに見せ合うから。
つまり、何だって御見通し。
「浦辺は滅ぶまで、加津と付き合いがあった。その加津が浦辺を通して、明里と繋がりを持ったらしい。」
ホエェ。
「明里は松田と違って戦嫌い、仕掛けないから岸多と明里の間はガラ空き。加津から東はナイ。社が強くなった耶万は守りを固め、外に目を向けなくなった。けど近海から大浦の間は、どうだろう。」
・・・・・・きな臭い、なんてモンじゃナイよ。
椎の川から明里に入れば命は無いが、そのまま川を上がれば何も起こらない。蛇谷の北で陸に上がり、ズンズン進めば幾らでも隠れられる。
近海と大浦の間にあるのは光江。
耶万の目が光っていても、少し離れれば陸に上がれる。加津と近海の間は清らでも、近海と光江の間。その先はガラ空きってコトだよね。そうだよね。
早稲も風見も戦好きだが、耶万との付き合いを変えた。とはいえ早稲も風見も戦場で生きられる兵を、とても強い兵を多く育てる事が出来る。
早稲は三鶴と玉置に攻められてボロッボロになったのに、アッと言う間に力をつけたオッソロシイ村。
あの風見と渡り合える村の生き残りが、霧雲山の統べる地に新しく作ったのが良村。
・・・・・・どうしよう、戻っちゃった。考えろ、考えるんだ忍びだろう! 捻り出せ。
「椎の川を上がっても獣谷を抜ける前に力尽きるか、休んでいる間に獣に襲われて死ぬ。」
毒嵓が涼しい顔をして、サラリと言い切った。
「椎の川と違って暴れ川は流れが早く、激しい。」
桧が言い、他の忍びたちがコクンと頷く。