11-56 木菟、感激
夜行性の木菟が明るいウチに下見するのは難しい。だから昼行性の鷲の目が木菟に代わり、当たりを付けた。
木菟は野比社、鷲の目は野呂社の祝に仕える忍び。
霧雲山で暮らす忍びは昔から助け合い、支え合って活動しているのだ。互いの得て不得手、嗜好まで知り尽くしている。
好きな異性のタイプもネ。
「ハァァ、こりゃ凄い。」
野呂の麓から飛んできた、清らな光が木菟を取り巻いた。野呂神の御力だろう。
「光を見失わないウチに。」
三日月湖から遠く離れているのに、湖がウッスラ輝きながら浮かび上がって見える。いや、そう見えた。
微かな光が風に吹かれ、野呂山へ飛んで行く。
「そうだな。」
野比は不気味なほど強く、永久中立を謳う社。
霧雲山で唯一『山守に関わらない』と宣言。と同時に木菟を派遣し、祝辺を監視中。
野呂は獣のように強いが人を助け、永久中立を謳う社。
霧雲山で唯一『祝辺に人を送らない』と宣言。と同時に鷲の目を祝辺に派遣し、常に山守と祝辺の動向を探っている。
木菟も鷲の目も表向き『祝辺の使者』として動いているが、知り得た情報は余す事無く共有。モノに寄っては他の忍びや、良村にも報告。
「これ、かな。」
「水を掛けよう。で、ネットリ粘ったら当たりだ。」
小さな深皿に取った土と、竹筒に汲んでおいた水を入れて指を突っ込む。クルクル混ぜてスッと引いた。
「粘る、当たりだ。確かめてくれ。」
「オウ。」
もう一人が指で押し、グニャッとするのを確かめた。
「焼いて割れても良いように、もう少し取ろう。」
「そうだな。」
獣の皮で作った袋に粘土をタップリ入れ、ヨイショと担いでスタコラサッサ。野呂山に入り、頂の近くにある野呂社を目指す。
日が高くても薄暗く、険しい山道。踏み外せば深い谷に真っ逆さま。そんなトコロを夜、それも闇夜に進むのだ。
アブナイなんてモンじゃ無い。
「こんばんは。野比社から参りました、木菟です。」
夜に動く忍び、木菟。難なく登頂。
「寝てるか。」
「夜だもんな。」
二人揃って、遠くを見つめる。
「お待たせしました。野呂神の使わしめ、尾被です。」
キュルン。
「光を宿した粘土、確かに受け取りました。夜遅くの山登り、お疲れでしょう。取れ立ての木の実です。どうぞ、お召し上がりください。」
尾被は鼺の隠。担当は夜。
昼は社の横に生えている桐の洞穴でグウグウ眠り、夜になると木の芽や木の実を求めて飛び回る。巡回を兼ねているので、誰にも何も言われない。
・・・・・・寝てるから。
「お気持ちだけ、いただきます。」
前足でシッカリ持って、鼻先を上へ。その姿が『コレ、大好きなんだ』と言っているようで受け取れない。
「そう、ですか。」
ショッピリ嬉しそう?
「では離れへ。一休みしてから御戻りください。」
山というのは登るより、下りる時が危ない。
明るくても滑り落ちてしまう。なのに月のない夜、幾ら忍びでも恐ろしかろう。というコトで野呂の社の司は離れにイロイロ揃え、整えた。
少しでも疲れが和らぐように、と。
離れに入って直ぐ、木菟が動けなくなる。
その心遣いに涙して。