11-55 死んでも
テイは奪い、いや殺し過ぎた。
「ギャァァッ。」
前触れもなく押し掛けて親や子、思い人を生贄や人柱にと言われ『はい、そうですか』と差し出す者は居ない。
「来るなぁ。」
山守の民から、祝から守ろうと戦って傷ついた者。寄って集って嬲られ、憎しみを抱いた者。頭を潰されたり首筋を切られたりして、命を散らした者は一人や二人では無いのだ。
「離れろぉぉ。」
守りたい人を奪われ、タップリ時を掛けて殺されればドウなる。隠は生き物に触れられない。
「止めてくれぇぇ。」
戦ったのに取り返せなかった。幸せを願ったのに苦しんでいる。そんな姿を目の当たりにして、穏やかで居られるワケが無い。
ブワッと深く濃い闇が広がり、丸吞みされて牙を剝く。闇堕ちしても救えず、目から光が消えてゆく。
「頼むからぁぁ。」
泣ける事が幸せだと気付くのは、流す涙が涸れ果てた後。泣きたくても泣けず、叫びたくても叫べない。
偽りや見せ掛けてはなく、真の苦しみに苛まれるのだ。ずっと。
「許さない。」
祝の力を持って生まれた、だから何だ。他より美しい、だから何だ。他より上手く出来る、だから何だ。
他より何かが優れているから? それが何だってんだよ。
「許せない。」
何がイケナカッタんだ、悪い事したか。して無いよな。己に出来る事をして、手を差し伸べて助け合って、支え合って生きてきた。
ソレだけなのに、どうして死ななきゃイケナイんだ。どうして殺されなきゃイケナイんだ。
「親を返せ!」
死んだよ、殺されたんだ山守に。山守の祝を乗っ取ったテイ、呪い祝にな。
「子を返せ!」
なぁ、教えてくれよ。霧雲山は祝辺の守に守られてんだろう。
「あの人を返せ!」
霧雲山の統べる地、全ての長は人の守。隠の守が他から、霧雲山の統べる地を守ってる。そうだよな。
ナニがドウなって、いや今はソレより何よりナゼこうなった。
何が起きたんだ。
これまで器を捨てて逃げてきた、逃げられた。なのに出られない、逃げられない。
思い出せ! 何か、何か有るハズだ。
コイツ、何か言ったな。何と言った、何を言い残した。
「ニガシマセンヨ、テイ。アキラメナサイ。」
ハッ!
「ヤットシネルノデス、キヨメラレテ。」
この声、そうだ。この器の声だ。
「アダジバァ、アギラメナイィィ。」
食い縛りながら首を、亀のようにヌッと伸ばす。
「ジンデダマルガァァ。」
目から鼻から、口から耳からもドクドク、ダバダバと血が流れる。
頭の中で響く声はテイの心と魂をガリガリ削り、いやジョリジョリと磨り下ろすよう。
「グルナァァ。」
ブンブンと頭を振る。
「バナレロォォ。」
目の玉が飛び出すほど見開く。
「ヤメデグレェェ。」
舌がビリビリして、目がチカチカし出した。
「ダノムガラァァ。」
喉の奥が大きく開き、ドロドロした何かが溢れ出す。
逃がしませんよ、テイ。諦めて受け入れなさい。
私はね、祝として出来る事をする。他の誰も死なせたくない、死なせない。だから死んでも離さない、放しません。




