11-54 実行
時をタップリかけて溜め込んだ力をゴッソリ奪われ、苛立つ気持ちを抑えられなかったセイ。
表に焦りが出てしまい、考えられないホド恥ずかしく、みっともない行いを為出かした。
「良かろう。みつ守、頼みます。」
「はぁい。」
対象に闇を植え付け、操り動かす力を持つ三代祝辺の守は山守の祝が大っ嫌い。母を『生贄にする』と奪われ、取り戻そうとした父を目の前で刺されたから。
泣き叫ぶ母に手を伸ばした父は山守の民に頭を踏まれ、駆け寄った倅を思い切り蹴り飛ばす。父は『生きろ』と言い残し、死んだ。
山守の祝を強く憎んで闇を宿すも、闇堕ちギリギリでひとつ守に清められ、ふたつ守に押さえつけられたから助かった。
祝社の継ぐ子になったのは闇の力を使い熟し、山守に殺された父母の敵を討つため。
祝辺の守になったのは死んでも力を失わず、祝辺で生きる隠になれるから。山守を見張り、己と同じ思いをする子を無くす事が出来ると考えたから。
「痛くするけど、テイを離すなよ。」
テイに体を乗っ取られても、体から追い出されたワケでは無い。隅っこで生きている。
目の前に居る山守の祝は、己から父母を奪った祝では無い。けれど己から父母を奪ったのはテイだ。きっとテイだ、テイに違い無い!
「バナゼェェ。」
目を剥き、鼻の穴から血を出して叫ぶ。
「は、やく。」
口からゴボッと血を吐き、仰け反って手をピクピクさせている。一時的にテイから体を奪い返したヨキが、命を削って急かしているのだ。
みつ守は闇を植え付け、体の隅隅まで伸ばした。
強い呪い祝であるテイでも、みつ守の闇には逆らえない。奪った体が己を閉じ込める器となり、息の根を止めても出られない事に気付く。
「祝辺の獄へ。」
人の守がスッと、地に線を引いた。
音も無く現れたのは底知れぬ深い穴。氷のように冷たい風が吹き、テイに乗っ取られたヨキごと包む。
「ギャァァァァァ。」
真っ逆さまに落ちた。
人の世と隠の世の境に作られた祝辺の獄には光が届かない。
爪が剝がれるまで掻いても掻いても、傷一つ付けられない壁と床。歯が折れるまで噛んでも噛んでもビクともシナイ、太くて鋭い柵。
細かく仕切られた獄がズラリと並び、山守の民や祝に殺された人の魂が守っている。
罪人を荒荒しい獣のように扱い、閉じ込める囲いからは出られない。死んで朽ち果てても捨て置かれ、苦しみ続ける。
骨は獄の床がバリバリと砕き、残された魂は壁に磨り下ろされながら取り込まれるのだ。
「ジンデダマルガァァ。」
テイは決めた。歴代の祝から奪った力を少しづつ使い、この男を生かそうと。
ココから生きて出た者は居ない、死んでも出られない。ソレが祝辺の獄。
蓄えた力を使い果たしても、器が骨になるまで耐え抜く。壁や床に近づかず浮き続ければ、新しいのが放り込まれる時に飛び出せるだろう。
「やっと来たか。」
「遅かったねぇ。」
「思い通りにはサセナイよ。」
テイに殺された人の魂が、生まれ育った地に戻れなかった魂が口口に述べる。
「カク、カクカクカク。」 ヤア、ヨクキタネェ。
「カク、カクカク。」 ミナ、アツマレ。
「カクカクッ。」 マッテタヨ。
獄の床や壁からニョキニョキと、手のようなモノが伸びてきた。器を捕らえると思ったのにズブリと突っ込み、テイの魂を弄る。