11-53 癇癪
えぇい! どうなっている。
祝だぞ、山守の祝が幾度も幾度も思い通りにならぬとは。キツネなんぞ私の力で、呪いの力で・・・・・・ん。
糸は切った、残らず消した。力を多く吸い取られたが、まだタップリと残っている。前の祝、その前の祝も強い力を持っていたからな。
クックック。
「キエェェッ。」
思い通りにならず、癇癪を起こすテイ。
「認めぬ、認めぬぞ。」
ジッタンバッタン、ごろんゴロン。
目に見えるモノが全てでは無い。代替わり為さった大貝神から、清らな御力をいただいている。
身も心も満たされた土の腹で作られ、出糸管から放出される清らな糸。以前のより強いゾ。
蜘蛛が糸を出す管は一つでは無く、腹端の糸疣の上に多数開口する。糸疣は蜘蛛の腹の下、肛門の前方にある二から四対の小突起。
オシリから出るケド、出る穴が違いマス。だからブリッと出ても臭くナイの。
「ナゼだ、なぜ動けぬ。」
力いっぱい引き千切り、バラバラになりました。けれど小さな糸がテイの魂に張り付き、力を奪い続けています。
暴れれば暴れるホド、深く食い込む優れモノ?
「こんなトコロで干乾びて堪るか!」
舞い上がる糸屑を吸い込み、苦しくなったテイ。瞬きしながら仰け反った。見えないモノが見えた、ような気がして。
「隠れてないで出てこい。」
「やっと気付きましたか。」
ひとつ守が姿を現し、ニコリ。
「テイ、祝の体から出なさい。山守神は『生贄も人柱も要らぬ』と仰せだ。」
「山守の事は山守で決める。祝辺の守よ、引け。」
???
「引け引け引けぇ。」
「ハァ。私はキチンと伝えましたよ。」
強い清めの力を生まれ持つ初代、祝辺の守。
ひとつ守は穏健な隠の守として知られ、人の守の後見でもある。そんな大物がワザワザ山守まで来て、呪い祝に声を掛けた。
「サッサと消えろ。」
「では、さようなら。」
スッと姿を消す前に、何かがピカッと光った。
山守の獄を出て、高い崖を攀じ登る。ゼイゼイはぁはぁ苦しそう。でも諦めず、歯を食いしばって進む。
「人の守よ、良く聞け。」
ヨキは細身だが男、体力は有る。
「山守のヨキ、いいえ呪い祝テイ。許し無く祝辺に足を踏み入れるとは、何を考えているのです。」
「黙れ! 今すぐ良山へ隠の守を向かわせ、強い祝の力を持つ娘を連れてこい。」
祝辺に乗り込むダケでも大事なのに、隠の守を使役する?
大蛇神や大実神の御許しなく『良山に入れ』なんて、隠の守を消し去るオツモリか。
「テイ、今すぐ祝の体から出なさい。消えなさい。」
「黙れ。山守神は強い力を」
声が、出ない。
「テイ。良山に手を出すなら、祝辺の獄に入れる。」
人の守は本気で、テイを投獄する気だ。
「ウグムググ。」 コレヲトケ。
「よつ守。」
二代三代とは少し違うが、四代祝辺の守にも闇の力がある。
闇の糸で対象を捕縛したり皮膚を縫う力を持つ元、継ぐ子は物静かだが、怒らせると怖い。
「はい。けれど、宜しいのですか。」
と言いながらテイの口を縫っていた糸を抜き、スッと下がる。
「やれるモンならヤッテみろ!」
テイが人の守に啖呵を切った。