11-52 いつものコトだけど
良村に預けられていたタエの器が安定した。良山から野呂、野呂から大泉に託す。
そのためにシッカリと話し合い、山守や祝辺から守らなければイケナイ。
「そうですか、早いモノですね。」
野呂神がシンミリと仰った。
社を通して二柱、大蛇神と野呂神が議られる。良山と霧雲山を繋いだが、御呼ばれしないと加わる事は出来ない。
だって神議りだモン。
「このまま良村で、とは。」
溜息交じりに大蛇神。
マルが望むならそれも良い。けれどタエは見て、択びに選び抜いたのだ。霧雲山で生きる道を。
「人に扱えぬホド強い力は身を滅ぼし、力を受け継いだ者が苦しむ事になります。」
悪取神のように。
「野呂神。山守の呪い祝、テイを閉じ込めるのに良い粘土に御心あたりは。」
「・・・・・・野呂と三日月湖の間で、月の光を蓄えた良い粘土が取れます。」
「ホウ。」
「月の出ぬ夜、日が昇るまでに取らねばなりませんが。」
話し合いの末、野比の力を借りる事になった。
先見の力を持つ野比の祝に仕えるのは、昼は休み夜に動く忍び、木菟。祝に見てもらい、木菟に粘土を取ってきてもらう。
心を読む事が出来る野呂の祝が、その土で壺を作る。祝の力を込めれば、テイの魂ダケを吸い込んで閉じ込める事が出来るハズ。
壺をグルグル巻きにするのは大貝神の使わしめ、土の糸。
悪取神の糸では閉じ込めたテイを融かし、壺に滲み込ませてしまう。壺から出る事は無いだろうが、万が一というコトも。
だから神の御力で紡がれる糸より、使わしめにより紡がれる糸が良いと相成った。
「壺が出来上がれば、直ぐに使いを出します。大蛇社で宜しいか?」
「はい。使い蛇か愛し子の犬、マルコに御申し付けください。」
仔犬の時はボンヤリしていたが、ワンと吠えられるようになってから出来る事が増えた。
犬なので前足で物を掴んだり、後ろ足だけで歩く事は出来ない。人の言の葉も話せないが、心の声で伝える事は出来る。
大蛇社に嫌呂と悪鬼を使わしめとして迎える事も考えたが、流山で幸せに暮らすコンコンを呼ぶのは気が引ける。
だから今も大蛇には使わしめがイナイ。使い蛇やマルコ、たまにノリコが代わりを務めている。
「そういうコトですか。」
はじまりの隠神の愛し子が、早稲の生き残りが作った新しい村に引き取られた。そう聞いたのは、いつだったか。
覚えてイナイが『釜戸の祝も思い切った事をする』と思った事は、何となく覚えている。
「タマ。野呂と三日月湖の間にある、月の光を蓄えた粘土が要るのだ。」
ニッコリ為さる野比神。
「その粘土を木菟が取りに行き、野呂社に届けると。」
大事ですね、タタさま。私、椀なら作れそうです。壺を作るのは・・・・・・難しそう。
さて、見ますか。月の出ぬ夜、闇の夜。
月読尊の御力が中つ国に届き、月の光を蓄える。パッと見たダケでは判らぬ、水を加えねば粘らぬ、そんな土なのでしょう。
「・・・・・・見えました。野呂山から見て上つ弓張の端を繋ぎ、その真中と野呂社を繋いだ真中。野呂の麓より離れた地に御座います。木菟、良いな。」
「はい、タマさま。」
忍び使い荒いよ! いつものコトだけど。
昨日は下つ弓張だったから、もう少し先だな。ホッ。