11-51 良村から離れたくない
もし飯野で生まれた婆さまが武田に、鴫山社に見つからなければ。ううん。見つかる前に茅野に逃げていたら、きっとイロイロ違ったよね。
母さんが生まれた茅野は豊かで暮らし易い、とても良い国だった。飯田との戦に負けて組み込まれたのに諦めず、少しづつ立て直した強い国。
「何を見ているの、タエ。」
「空が高いなぁって。」
私、ずっと良村で暮らしたい。霧雲山より良山が良いの。良山から、良村から離れたくないの。
「うん、吸い込まれそう。」
そう言って、マルがタエを抱きしめた。
タエが考え込んでいる時は、先読している事が多い。難しい顔をしている時は少しでも良くなるよう、択びに選んでいるから黙って見守る。
茅野から移り住んで直ぐの頃は眠れないのか、顔の色が悪かった。
タエが持つ先読の力は他とは違い、ずっと先まで読めてしまう強い力。だから器が出来るまで時が掛かるし、とても壊れ易い。
「ウッ。」
「タエは一人じゃない。私が居る、マルコも居る。」
「ワン。」 ココニイルヨ。
眉間に皴を寄せ、顳顬を押さえるタエ。タエを抱きしめ、背を摩るマル。マルの側でタエを見つめるマルコ。
私、山を出るのね。大実社から隠の世に入って、いろんな社を通って。
マルの力で守られながら、私は良村から野呂へ行く。山守にも祝辺にも気付かれず、霧雲山に入るのね。
私を狙っているのは祝辺では無く山守、山守の呪い祝テイ。
ミヨとタマ、マルの事も狙っている。でも思い通りにナラナイわ。ミヨには心の声が聞こえるし、タマは水を操れるもの。
祝の体を奪ってもテイはテイ、隠でも妖怪でも何でも同じ。
器が出来たミヨには全て聞こえる。タマは器が出来る前から強かったけど、もっと強くなったわ。泉や川の水だけじゃなく、人の体を流れる水だって操れちゃう。
テイが近づけばミヨが気付き、タマが動きを止める。だから玉置は宝玉社に逆らえない。
マルには清めと守りの力が有る。村には大蛇社があるし、マルが良山を出る事は無い。良山はマルの力で守られていて、大蛇神とマルコが目を光らせている。
人でも何でも許し無く入れば死んじゃうわ。
「ありがとう、マル。マルコ。大好き。」
「私も大好き。」
「ワン。」 ダイスキ。
二人と一匹、キャッキャうふふ。
ウム。器は出来たが、まだ脆い。がソロソロ話を進めるか。
山守も祝辺もタエの力を知れば、どんな手を使ってでも奪おうとするだろう。祝辺はテイを押さえ込むため、テイは力を強めるために。
あの力、母から娘へ引き継がれる先読の力は強い。強すぎて人に扱いきれず、身を滅ぼすのだ。
タエが霧雲山に入っても、マルなら隠の世から行ける。会うのを止める気はナイし、溢れた力を抑えられるのはマルだけ。
「呪い祝か。」
玉置に禍を齎し、搔き乱そうとしていた。狙いは宝玉社の継ぐ子、ミヨとタマ。器が出来るまで良村で預かり、戻した。がアレは諦めが悪い、悪過ぎる!
「フゥゥ。」
今の祝からテイが出たら直ぐ、壺に閉じ込めよう。
山守の粘土を使って焼き、蓋をしてグルグル巻きにしよう。いつかアレを清められるホド強い、祝の力を生まれ持つ者が現れるまで持てば良いのだから。
「祝辺の獄にでも納めれば、人の世には出ぬ。」
うんうん、そうしよう。
祝 ~hafuri~ 連載1000話を記念して、新作を発表します。
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