1-10 二人の王
「エド、ジャド。ベン、ウィ。生きよ。」
支配の才を持つ父。大王に、覇気がない。やっと気づいた。何かが起こったと。
「急ぎ、人を集めよ。」
臣下に命じる。数年すれば、才を持つ子が生まれる。それまで、隠せば良い。化け王は言った。邪魔をしない限りと。エンのことは、諦める。
生まれなかった。才は、血縁へ受け継がれる。それなのに、まさか。
なぜ気づかなかった。治癒の才だけじゃない。氷の才も、水の才も。どこにもない。今ある才を保護しよう。化け王に奪われる前に。
数年後。すべての才が消えた。
才を、奪われた。命を吸わなければ生きられない。なのに吸えない。魂を。ならば命を絡めながら血を。やっと満たされた。そして気づく。日の光が浴びられないことに。
力はあった。鋭い嗅覚、高い身体能力。しかし、行動できるのは夜だけ。王城の地下へ。昼夜逆転の生活。絶望しかけた時、生まれた。才に似た力を持つ子が。
エドは決めた。次世代を守るために、化け王に屈すると。
「化け王。戻られました。」
はじまりの一族は、恭順の意を表する。忌み嫌っていた相手に。
「皆、行こう。化け王の城へ。」
「これは皆さん。ご機嫌いかが。」
エドは驚く。最後に会った時のままだ。
「化け王。はじまりの一族、ここに」
「フッ。いや、失礼。私も、はじまりの一族。皆さんの弟ですよ。」
歯を食いしばる。
「戻ってすぐ、使いを出したのですが。随分と。」
叫びそうになった。
「それに、皆さん。お顔の色が優れませんね。」
楽しんでやがる。
「おぉぉ怖い。睨まないで下さい、兄上。」
「化け王よ。王城の、地下で暮らす許可を。」
「こんな夜更けに。」
好き好んで、こうなったとでも?
「この城。良い思い出が詰まっていてね。時々、戻っていたんだ。ほら、風を入れないと。」
耐えろ、耐えろ。
「耐えろ、ですか。」
聞こえるのか、心の声が。
「聞こえますよ。」
バケモノめ。
「バケモノです。皆さんも、ね。」
「一緒にするな。」
ジャドとベンが飛び出す。氷像になった。一瞬で。
「この国には、二人の王がいる。そうですね、エド大王。」
「はい。」
支配の才が消えた今、エドが即位するしかない。
「そうそう、王城の地下。私の許しなど、必要ありません。王城は大王の城。お好きに。」
氷が一瞬で溶けた。
「次はありません。」
皆、誓った。化け王に逆らわない。邪魔しないと。次世代を残すため。力を持つ子を守るため。
「才ではない力。」
血を吸って生きる者。能力には、差があるな。引き継がれるものなのか。
「まぁ、良い。」
邪魔をしない限り。
はじまり編でした。
『祝』なのに、祝が! ご安心ください。
旅立ち編へ続きます。