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癒される時間

誰にでも癒される瞬間がある。

生まれてから今まで彼女がいない、仕事以外の時間は毎日ネットゲームばかりの僕にもそれは存在する。


一人暮らしがしたいと実家を出て借りたワンルームのアパートから、歩いて2〜3分のところに小さな公園がある。

遊具といえばブランコと砂場くらいしかないその場所は、ほとんど人が訪れることはなくいつも10匹ほどの猫が集まるいわゆる猫の集会所になっていた。

朝会社に出勤する前に、その猫たちにエサをあげてふれあうことが僕の日課になっていた。


初めのうち猫たちは、エサを食べるどころか近づいただけでどこかに逃げてしまったけれど、何日も根気強く通い詰めるうちに少しずつエサを食べてくれるようになり、3か月が過ぎた今では僕に体をスリスリしてくるまでになっていた。

昔から動物好きだったことと時間をかけてくどき落としたこともあって、猫とふれあう時間は僕にとってとても癒される貴重な時間になっていた。




その日もいつもと変わらずに、猫缶とカニカマを持ってアパートを出た。

公園の入口にさしかかり猫たちがいつも集まる砂場の辺りに目を向けると、誰か先客がいることに気づいて思わず歩みを止めた。

普段ほとんど人が集まらない場所に僕より先に訪れていたのは、ジーンズにTシャツというシンプルな格好の女の子だった。

その子はしゃがんで、手に持った袋からパンを少しずつちぎっては取り出して猫たちにあげていた。

その姿に僕は何だか少し違和感を覚えながらどうしようかと考えたけれど、毎日の日課を辞めることは出来ないと思って探る様に少しずつ砂場の方へと足を向けた。

歩みを進めている間、‘彼女はいったい誰なんだろう’という好奇心と‘やっぱりやめておけばよかった’という後悔とで複雑な気持ちにおそわれていると、その子は僕に気づいたのかこちらに視線を向けてきた。

思ったより早く砂場の方に近付いていたことに戸惑いながらも‘何か話さなくちゃ’と頭の中で々言葉を探していると、その子はしゃがんだまま僕の手元を指さして「それ。」と言ってニコリと微笑んだ。

「あ、うん、これ・・・・。毎朝エサやってるんだ。ここ何だか猫の集会所になってるみたいでこいつらと一緒にいるとほっとするって言うか、癒されてるっていうか・・あの・・・。」

せきを切ったように一気に話したけれど、少し話しすぎた自分が何だかとても恥ずかしく思えて最後はフェードアウトしてしまった。

そんな僕を見てその子は「あげないの?」と言ってまた微笑む。

その言葉に僕は慌ててエサをあげ始めると、その子も手伝ってくれた。


少し落ち着いた僕は、このはおとなしいとか、このはやんちゃでいつも他の猫の分もエサを食べようとするとか言う話をしながらエサをあげていた。

その子は時々「そうなんだ。」とか「かわいいね。」と相槌をうってくれた。

今までろくに女の子と話したことがなかった僕だったけれど、不思議とその子とは自然に話すことが出来た。


エサをあげ終わると僕たちはお互い「それじゃ。」と言って別れた。

その子のことはいろいろ気になったけれど名前すら聞くことはなかった。


その時僕は、明日からはまたいつもの癒される時間が来ると思っていた。

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