『アルムとベネッタ』
「……」
「……」
ある日の昼下がり。
学院も休みであり、アルムとベネッタは二人で第二寮の共有スペースにいた。
机の上には紅茶のポットと三人分の紅茶のカップと空っぽな平皿がいくつか置かれている。
昼食を兼ねたティータイムが終わった所だった。
「ふわぁ……」
窓から差し込む日差しが共有スペースを温かくし、その陽気のせいかベネッタは小さくあくびをした。
昼食後にこんな温かい空気に包まれてしまっては眠たくなるのも当然だ。
ベネッタがあくびで出てきた涙を拭うと、読書をしていたアルムと目が合う。
「眠いのか?」
「うん、ちょっと……」
「エルミラが帰ってくるまで眠ってもいいぞ」
エルミラは学院での用事とミスティの迎えに先程出て行ってしまった。
普段ならついていくのだが、アルムを一人にするのはとベネッタは残ったのである。
「うーん……今日エルミラの部屋泊まるからー……変な時間まで寝れなかったら寂しいから起きてるー……」
「そうか」
アルムは再び読んでいた本に目を落としてしまう。
眠そうな友人を前にしてそれはどうなんだと、アルムへの文句が頭に浮かびかけたが、ここで気を遣って話を振ってくるアルムもどこかおかしい気がしたので仕方ないと許す事にした。
ベネッタ裁判は開かれることなくアルムは無罪。
そもそも、眠りたくないというのは自分の都合なので別にアルムは悪くないのである。
「ん……んんん……!」
眠気を誤魔化そうとベネッタは体を伸ばした。
「ふあ……」
そのまま、座っていたソファの背もたれに体を委ねる。
寮のソファは貴族が使う事を想定しているからか、何とも心地よい。眠りたくないベネッタにとってはその心地よさが今は少しばかり憎かった。
この高級ソファめ、気持ちよすぎるぞ。と謎の文句を心の中で漏らす。
「……そのまま寝てしまいそうだな」
「正直このまま眠っちゃいそうー」
「いいんじゃないか? エルミラなら一緒に起きてくれるだろ」
「今日はミスティも泊まるもんー……ミスティは生活時間きっちりしてるから夜更かししないよー」
「ああ、確かにイメージは無いな……」
「でしょー?」
「でも、ベネッタとエルミラが頼んだら普通に起きてくれる気がするが」
「うとうとするミスティは可愛いかもだけどさー。付き合わせちゃうのは悪いよー」
「なら、起きてるしかないな」
「頑張るー……」
また読書に戻ってしまうアルム。
ベネッタは眠気を誤魔化そうと体を揺らしながら、そんなアルムを観察していた。
退屈とは思っていないのがまた不思議な気分だった。
無言の時間すら気まずくないというか、落ち着くというか。
アルムのほうも気まずさとは無縁の、いつもの表情で本を読んでいる。
その感覚がベネッタには新鮮で、ただ本のページをめくるアルムを観察し続けていた。
何の本を読んでいるのかと聞いておこうかと思ったが、そんな話題作りはしなくてもいいなと思った。
「……」
「……」
アルムの手が止まる。
興味深いページを見つけたのか、体勢を変えてそのページを真剣な表情で見つめていた。
アルムという友人は一見無表情で感情に乏しいように見えるが、慣れると変化がとてもわかりやすいのである。
「ふふ」
「ん?」
つい、そんな変化がわかる自分に嬉しくなって笑ってしまった。
アルムもそんなベネッタの笑顔に気付く。
「どうした?」
「んーん、なんでもないー」
「……? そうか? 嬉しそうだが……」
「うん、あったかいなぁと思って」
ベネッタが窓の方に目をやると、アルムの視線も窓の方に。
窓から見える青い空に白い雲。今日は快晴だ。
「ああ、今日はいい天気だからな」
「だねー」
そんな、アルムとベネッタの何でもない時間。
エルミラがミスティを連れて戻ってくるまで、二人はそんな緩い会話を時折交わしながら、昼下がりを過ごすのであった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
リクエストされたアルムとベネッタのお話でした。この二人はゆるゆるです。
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白の平民魔法使い
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