敗者 【月夜譚No.39】
こんな考えで決勝に残れるほど甘くはない。そんなことは最初から解っていた。――解っていたのに、その考えを捨てられなかったから、今、悔しい思いをしている。
毎日明るい表情で部活の準備や着替えをしていたはずの部室に集まったチームメイトは、皆一様に下を向いていた。静かな空間に洟を啜る音が微かに聞こえる。
どんよりとした空気はまるで粘性を持った泥のようで、皆の手足を搦め捕る。このままでは底なし沼の奥深くに引っ張り込まれて、戻ってこられなくなりそうだ。
だからこそ、部長は自身の気持ちを押し込めて、努めて明るい声を出した。全員が顔を上げ、こちらを見る。潤んだ瞳を一身に受けて、部長は思わず口角を上げた。
彼等に出会えて良かった。だから、今度こそ。次こそは、全員で決勝の舞台に立ちたい。その決意を胸に、彼はチームメイトの笑顔を取り戻すべく声を張った。