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夢祭  作者: 柚須 佳
2/3

アンモナイト

 八月六日の日差しは厳しかった。


 真上からジリジリと肌を焼く陽光に目をしかめつつ、男はちらりと腕時計を見た。


 午後一時二分。


 男は額の汗を腕で拭うと、夏草揺れる田舎の畦道を歩き出した。

 五分ほど歩くと、道の真ん中に小さな水たまりがあった。

 水たまりは泥で濁っており、水面には数匹のアメンボが弾んでいた。

 男は子気味良く動きまわるアメンボが作り出す波紋を眺めていた。

 ふっと気付くと、波紋に中に七色の渦巻き状のものがあった。


 男は不思議に思い、しゃがみ込んだ。


 すると、男の気配に気づいたのか、近くにいたアメンボたちがスイスイと離れていった。

 男は水たまりの中央から螺旋に広がる七色の渦巻きを覗き込んだ。


 指を出してみた。


 その指が水面に触れると、自身が作った波紋で渦巻きが揺れた。

 と、その瞬間、水しぶきを上げ、七色の渦巻きが宙にまった。


 男は驚いて、その場に尻もちをついた。


 男が見上げると、そこにはキラキラと光るサッカーボール大のアンモナイトが浮いていた。

 男は立ち上がり、繁々とアンモナイトを観察した。

 水たまりの上空でしか存在できないのか、金魚鉢の金魚のごとく、アンモナイトは同じ場所をクルクルと回っていた。


 男がアンモナイトの前に手を出すと、進行方向を失ったのか、泳ぎをぴたりと止めた。

 そのまま、渦巻きの部分に触れようと手を近づけると、浮力を失ったのか、突然ボチャンと水たまりに落ちた。


 泥の水しぶきが男のズボンを汚した。


 男はしばらく濡れた足先を見ていたが、突然水たまりごとアンモナイトを大きく蹴り上げた。

 すると、アンモナイトは水しぶきを纏いながら空高く舞い上がり、上空の一番高いところで一度ピタリと止まった。そして、そのまま優雅に青空を泳ぎだした。


 男は、遠くの入道雲の中へ消えていくアンモナイトを、寂しそうな目で見つめていた。


 ――


「なによこれ、サッカー選手なの、それとも考古学者にでもなりたかったのかしら?」

白衣を着た女性は、今日最後のデータを見終わると、そう呟きながら、そっとディスプレイの電源を落とした。


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