9お白洲
お吹き祭りが終わり、日々の平穏が戻る。
お浜も無事に、本荘家に戻り、養女として家事手習い
をしっかりと叩きこまれているという事であった。
しかしそんな合間に、どこか遠くを眺める事があり、
女将さんに、注意されることもあるとかないとか、
そんな日々のある日の事であった。
お浜の父親が、那助を訪ねてきて、なにやら二人で言い合いを始めた。
“いや、だからどこの誰だか、とんとわからねぇんだって!”
“そんな事ないだろう、準備したのはお前らだろ”
どうやら、例の好青年のことらしかった。
“この所、お浜の様子がおかしくてな、それが例の助けた兄ちゃんということはだいたい見当はつくんだが、、、
問題はここさ、本荘さまのところに、御大名様から側女のお声がかかっていてな、そうなると数年はご奉公だ、御殿様の目にとまれば当然
御夜伽もありゃ、お勤めもある。
そんな事情で、親としては本に不憫で
、いったいとうすりゃってことで、お九志汰さまの知恵はないか、聞きに来たってわけさ“。
“いゃぁ、そうは言っても、”この時代の政治体制など
一太にどうすることができるはずもない。
ましてや、男女関係など経験寡少な一太には無理、まったく無理!と自分がら拝むしかない有様だ。
気になったので聞いてみると、例の悪漢たちは、その後すぐに捕まったらしく、近くお白洲があるとか。
もともと、本荘家に仕えていた小作農たちだが、不良な行動がもとで、解約させられ、それを恨んでの事らしい。
お浜にも、証人として出座の知らせが来ているという事だ。
男三人、乙女の悩みはどうすることもできず、
うんうんと、三十路男は唸るばかりであった。
二日後、
御白洲が開かれた。
もともと御殿様の側女予定の娘を襲ったという事で、
御殿様直々に御審判なさるという事になったらしい。
そう告げられると、
悪漢たちは、てえ変だと、ビビりながらも、頭目は既に開き直っている様に見受けられた。
男たちはお白洲に座らされ、其の左方には、お浜と本荘良正、その後ろに後見として一太と那助がついた。
暫くして、御殿様が入場される。
全員が平伏し、許されたものが頭を上げる。
“本荘家娘、お浜、このたびそなたを狼藉した者たちは、これらの者らで間違いないか?”
“はい、間違いございませぬ”
“その方、何故にお浜を狼藉申した?”
“へい、われらはもともとそちらの本荘様の元の小作農でございやす。皆が次男、三男でございやして、元家の田畑を継ぐのをかなわず、本荘様の小作農として入りました。しかし、政貢と荘貢の両税を収めても、生きるに限界でございまして、
そうして日々に生きる気が失せてもうして、常の務めが
疎かになり、本荘様から雇いを解かれたのでございます。
我らはも人の子にて、生き申す、しかしながら
日々が成り立ちませぬ、それに対し怒り申し候”
“本荘、うぬはいかに申すぞ”
“はい、小作農が日々大変なのはわかり申す、ただこの者たち以外にも、同じ境遇にて続けているものが居ります。
何事もなければ、その者たちこそ不満が溜まり申す。”
“ふむ、確かに、お浜はいかに申すや、どのような処罰を望むや”
“はい、確かにその時は大変怖う思いました。しかし、これまでの私とて、ほぼ変わりない境遇であったことは確かでございます。
お九志汰さまの御知恵で何とか、
願わくば、処罰よりも日々務めることで人として
成り立つことを望みます。また私に関しても、側女となるための心構えが出来ておらず、申し訳ございませぬ。
願わくば今回の話は辞してお詫び申し上げたいのですが”
“なんと、辞するとな、それは、、”
今までお白洲を取回してきた役司が、あわてて殿様を伺う
“うむ、お浜の申すことにも一理ある。この者らとて、
人として成り立つならば、かような狼藉を働かなくても良かったはずじゃ。かくしてお九志汰どの、おぬしの力でなんとかならぬだろうか?”
突然殿様から振られて、一太は大いに慌てるものの、大方
見当はついていた。
解りやすく言えば、この人たちはニートなのだ。
やれることがないから、無職になり、こんなことに手を染めて、いつしか身を持ち崩してしまった人たちだ。
ならば、この人たちに身が成り立つ職を用意すればよい。
幸い材料はこの社にたくさんある。
“あー、何とかなりますので私に任せていただけますか?”
と答えると、殿様はにっこりと笑って頷いた。
そして“あと、お浜ちゃんな、側女辞退はつれないよお”
と急に崩した口調のに、皆が驚いてぽかんとしていると、
“あっ!”
とお浜が素っ頓狂な声を上げる。よく見ると
何と先日の好青年は、今目の前にいるお殿様ではないか。
余りの驚きに、びっくりして嬉しくて、お浜はわんわん
と泣きだした、“わかった、わかった、すまん、すまん。”
と殿様がなだめる、この時代にしては、何ともカオスな
空間ができあがりつつ、お白洲は閉廷した。