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幸風に吹かれて  作者: 村崎野 賀茂
8/22

8お吹き祭り 2

あと少しで実家に戻れる。

お浜の心はいつにもまして軽よか、そして楽しげだ。

父親のために八戒膏、兄弟姉妹のためにあぶり餅を土産にして、ついつい見せたくて、明日のお玉女の衣装のまま、今日は帰路に就いたのだ。

道中、誰かに会うと恥ずかしいかもと思ったけれども、これもお九志汰さまがおっしゃる“センデン”だよね、って

自分に言い聞かせてあるので、大丈夫。

と、思ったその時だった。

前の辻から、わらわらっと数人の男が立ちはだかってきた。

“ちょっとお嬢ちゃん、顔かしな!”

“何ですか、私はあなたたちなど面識ないですが”

“あんたにはなくてもおれたちにゃぁあるんだわ、

さぁおとなしく付いてきな!!”

と無理やり手首をつかんで、裏路地に連れ込む。

お浜は必死に抵抗するが、男数人に取り押さえられていては

どうしようもないようがないことは明白だった。

徐々に引きずり込まれていたその時、腕をつかんでいた男の手に、激痛が走った。

“痛っぇ!!”

振り向くと、一人の若い男が、手刀で当身をくらわせていた。

“てめぇ、邪魔しゃがると唯じゃおかねえぞ!!”

頭目と思しき男の脅しにもびくともせず、若い男は次々に

当身を喰らわせていく。

ある時は拳で、ある時はひじで、向かってくるこぶしは

上腕で軽くいなし、今度は柔で足下に背中から叩きつける。

瞬く間に劣勢となった悪漢たちは、聞いたような捨てゼリフを残して立ち去るしかなかった。


“うぐっ、えっ、本当にありがとうございます”

お浜が泣きながら礼を言うと、好青年は、

“いやいや、大した事ないですよ、ご生宅まで送りましょう”

とボディーガードを買ってくれた。

帰ると娘のただならぬ様子に飛び出してきた父親であったが、青年が一通りの事情を説明すると、感謝し何度も礼を述べて娘を迎え入れた。

精神的なショックもあり、お浜はすぐに寝れなかったが、

日中の疲れもあり、暫くすると静かに寝息を立て始めた。


翌朝、父親が社まで、お浜を送り届けると、どうやら昨日の

騒動で左足の足袋飾りがなくなっていることに気づいた。

お九志汰さまに頼んで、急きょ竹皮に採色して作ってみたが、

やはり絹物とは色合いが微妙にずれてしっくりこない。

今にも泣きそうなお浜をなだめながら、父親は諭す。

“こわい思いしたのよくわかる。でもそれで今日お玉女を

お勤めできなければ、悪い奴らの思うツボじゃねえだろうか。 お前の楽しく踊る姿を見せつけてやることが、やつらに対する一番のお返しじゃねぇか。”

まだ少し泣いていたお浜であったが、ちんと鼻をすすると

腹が決まったようだった。

一太の急きょ作成した足袋飾りをつけて、私行くと

境内にかけていった。


お吹き祭りが始まった。

仰ぎ方がシャンシャンと仰ぎ、お玉女がドドンドドンと左右に舞い踊りながら囃したてる。

奇声を上げていた、真っ赤に彩色した子鬼たちも、風にあおられて、転がり出ていく。そしてそれを見ていた観客たちも

風の中に加わり舞い踊りが全体にいきわたったところが

この祭りのクライマックスだ。

お浜も他のお玉女も、仰ぎ方も観衆もすべて一体になり、

舞い踊る。

初夏になる前の憂鬱を吹き飛ばすかのような、濃い夜が

来て、この里は夏を迎えるのだ。

一太も交えて踊りまくっていると、、、

お浜の手が、一人の仰ぎ方の前で、ゆっくりと止まった。

見ると仰ぎ方の男も、少し微笑んで立ち尽くしている。

そう、例の好青年であった。

青年はお浜の足元にしゃがむと、懐から足袋飾りを取り出し

お浜に着けてあげる。

落とした足袋飾りはどうやら青年が持っていてくれたようだ。

さすがに専用に作っただけあって、お浜は一気にお玉女力が上がったのが明白だった。

“うおーっ”

と周りはさらに大盛況となり、お浜と青年はいつまでも

見つめ合っていた。


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