春空、舞う赤、君、僕
この調子なら、君とずっと一緒にいられるのではないか。
春に近づく、今ならば、この声ならば、君に届くのではないか。
なんとかこのもどかしい心を、何処かへ捨てられないか。
1年前の僕の気持ち。何も知らずに、平凡に暮らしていた。
風が気持ちいい。今日は、とてもいい天気だった。先週までは寒くて鬱陶しかったのに、一変して空気が暖かく、澄んでいた。
『海斗くんっ!』
風に乗って、君の声が聞こえた気がする。何故だろう。近くに居る気がするんだ。探してみるけれど、なんでか何処にもいない。
『海斗くんってば!聞いてるの!?』
「え?うん。聞いてるよ。」
『最近、笑ってないぞ?辛いことでもあったの??』
「よくいうよ。あるに決まってるでしょう?」
『まだ引きずってるんだ。』
「当たり前でしょ?華は僕の唯一の...」
言葉を続けようとしたら、急に緩い強風が葉の渦を巻いて僕の元を走りまわっている。
嫌だ。
また何処かへ行ってしまう。
行かないで。
僕を置いて行かないで。
姿は見えない。もうない。あの笑顔は、あの温もりは、仕草や口癖は、もう聞けない。感じることは出来ない。
君は、1年前、勇気を振り絞って空を飛んで行った。可憐に舞う君の赤色が、はっきりと、鮮明に、僕の脳裏まで媚びりついている。
でも、君が飛んで行ったこの春の日に君は僕に話しかけてくる。
僕の胸に、そっと。綺麗な声で。
僕はこの一瞬のひと時を楽しみに今を生きている。
君の分まで生きようと。君に捧げたこの命は、永遠に。永久に。
もう、君はいない。この世界にはいない。地に足は着いていない。だけれども、僕の心にはいる。しっかり生きている。
君だけが僕の活力源であり、支えである。
また来年の春が待ち遠しい。
365日後、君はまた僕に話しかける。
その時まで。
「華は、僕の唯一の愛した人なんだよ。嫌いになって、なんて無理だよ。僕は、君の嫌いになり方を忘れてしまったから。」
「こう見えて、僕は一途なんだよ?」
「聞いてくれて居るかな。」
「........」
「......じゃぁ、また来年。」
手をそっと、胸に当て僕はそう呟くと、染み付いて残る君の赤色に一輪の花を添えその場を去った。