カルト大統領
その男が大統領候補に立った時、彼は絶対に当選しないだろうと思っていた。
スキャンダルまみれで、態度は尊大、思想的にも非常に偏っていて、馬鹿げた発言や嘘を何度も繰り返し、何より、その掲げる政策には現実性がなかったからだ。
愚かとしか言いようがない。
ところが、世の中というのは奇妙なもので、非常に僅差ではあったが、その男は大統領選に勝利し大統領になってしまったのだった。
“おいおい! こんな事ってあるかよ?”
男が当選しても彼はしばらくその現実を受け入れられないでいた。
だがそれから冷静になり、酷い格差に苦しむ一部の層には彼の既存勢力に対抗する姿勢は強く響いたのではないかと想像をした。彼らは願望から目が曇り、この馬鹿げた男をヒーローだと思いたがっているのではないか?と。こんな熱狂は何か切っ掛けがあればすぐに冷める。
実際、就任してからも常にスキャンダルが付いて回り、問題発言を繰り返す大統領の支持率は歴代大統領に比べても著しく低かった。まだ、政権を維持できているのが不思議なくらいだ。
そんな状況だったから、後少しで、止めを刺せるように彼は感じていた。それで彼はふとある計画を思い付いたのだった。
彼は自らを政府の裏事情を知る匿名の“Z”と名乗り、ネットにサイトを立ち上げるとこんな投稿をし始めた。
『今、この世界は金融経済で儲けた一部の富裕層に支配されており、その支配に反旗を翻した人物こそが現大統領なのだ。彼はこの世界の救世主だ。彼にまつわるスキャンダルは、全て支配者達が流したデマに過ぎない。さぁ、皆で大統領を応援しよう!』
軽い気持ちでやり始めたのだが、フォロワーは瞬く間に増え、アクセス数はうなぎ登りに上がっていった。
間違いない。
大統領に願望を重ねた連中が、自分のサイトの虜になっているのだ。
その内にネット上だけじゃなく、テレビにまで彼のその活動は取り上げられるようになっていった。こうなって来ると選挙戦にも影響を与える。
愚かな大統領が、これを利用しないはずがない。
彼はそう予想していた。
そして、案の定、大統領は「自分こそは裏の支配者達と戦う選ばれた人間なのだ」と彼の投稿にのった主張をし始めたのだった。
彼はそれを聞いて“罠にかかった”とそう思った。
このタイミングしかない。
そこで彼は自分のサイトでしていた今までの投稿は全てフェイクで嘘っぱちだと暴露したのだった。
『大統領は嘘の投稿を利用するようなクソ野郎だ! さぁ、皆、糾弾してやろう! 大統領の座からあいつを引きずり落してやろうじゃないか!』
そして、そう主張した。
それはネット上をトップニュースとして駆け巡り、テレビでも話題になった。これでようやく大統領も終わりだろう。そう彼は考えた。自業自得だ。
が、大統領はそれに驚くべき反応を見せたのだった。
「あの投稿をした“Z”は偽物だ。恐らく、本当の彼は何らかの陰謀の犠牲になってしまったのだろう。
だが、安心してくれ、私が絶対に助け出してみせる!」
平然とそんな事を言ってのけたのだ。
何という傲岸。
彼はそれに驚いたのだが、それよりももっと驚いたのはその後だった。
大統領のその発言を信じた支持者達が、猛然と彼に対して抗議の書き込みをし始めたのだ。つまり、大統領のトンデモな嘘を信じてしまったということになる。
やがて、彼にこんなメールが届いた。
『ありがとう。実に面白いゲームだった。君はとてもクレバーで優秀な人間だが、たった一つだけ勘違いをしていたようだ。
愚かなのは私ではなく、大衆なのだよ。だから私は選ばれたんだ。彼らは非常に簡単に騙されてくれる……』
現実は小説より奇なり
なんて言いますが、あまりに面白いネタだったので、思わず使ってみました。
因みに僕は「Q」と聞いて、ストリートファイターを思い出しました。「G」との関連は考えすぎか