ふたりのその子はかく語りき。
母は美しい人だ。
そのせいで妬みや悪意のある噂話をされる。
父の人受けや地位もそれに一役買っているのはどうにも歯がゆい。
そこかしこに上に立ちたがる者ばかりがいるような場所だから、隙あらば人を貶めようとする。居場所がそうなのだから、仕方がないといえば仕方のない事だとは思う。
思うが、それでも余裕は奪われていく。
本人がそんな悪意を気にもとめず、さらりと躱して笑うものだから、なおのこと気が気ではなくなる。
言いたいことは言わせておけばいい、勝手な想像も好きにして構わない。
信頼している人たちだけが知っていてくれればそれで充分だから。
子どもだった頃は、母の言っていたことの半分も理解できていなかったし、心無い言葉にいちいち腹を立てていた。
この場所が嫌で嫌でどうしようもなかった。
その度に母は、ひとり機嫌の悪くなる私の頭をなでる。困ったような顔で笑いながら。
どれだけ貶めようと言葉を吐かれても、口さがない話を垂れ流されようと、母はいつも顔を上げ、真っ直ぐに背を伸ばし、父の横に堂々と立っている。
外向きのその姿勢はとても美しい。し、気を許した人たちだけに見せる顔は子どもっぽくて可愛らしい。
嫌なことはさっさと済ませて、楽しいことには全力になる。それこそ小さな子どもの頃は一緒に泥まみれになって、誰かに怒られるまで転げ回って遊んでいた。
飾り気のない気質はさっぱりし過ぎて羨ましいくらいだ。
そんな母だから、父が骨抜きになるのもわかる。
もう、べた惚れとはこのことだと、見ているこっちが恥ずかしくなるほどだ。
並んでいると間に割って入ってくる。
引っ付いていると引き剥がされる。
子どものうちはよく分かっていなかったが、今思うとやきもち以外のなんでもない。
父は息子にすら嫉妬心を隠さなかった。
まぁ……べた惚れなんだから、仕様がない。
これは、そこまで惚れ込ませた母と、そんな母にべた惚れの父のはなし。
そこに小さな自分が加わるまでの、昔のはなし。