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蹴師(けりし)  作者: 福島崇史
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ラウェイとシラット

タイのバンコクを飛び立って約3時間半。

蹴速が降り立ったのは又も暑い国であった。

1年を通して気候は殆んど変わらないが雨季と乾季があり、蹴速の訪れたこの時期は幸いにも乾季である。


「へぇ…これがジャカルタ…てっきり発展途上の田舎かと思ってたけど、すんげぇ大都会じゃんよ」


想像を遥かに超えた発展ぶりに驚くと同時に、己の無知を心の何処かで恥じる。

本当なら蹴速は最初、タイのお隣であるミャンマーを訪れるつもりでいた。

ビルマ拳法ムエ・カチューア…今風にラウェイと呼んだ方が分かりやすいだろうか?

それと闘う腹づもりだったのだ。


〝素手のムエタイ〟と呼ばれるラウェイだが、大きな差異はそれだけでは無い。

頭突きや故意で無ければ金的攻撃も有効…

近年のルール改定で禁じられはしたものの、かつては絞め技までが認められていた。


その競技性も異質であり、特筆すべきは判定が無い事であろう。

つまりKOによる勝利しか認められないのだ。

もちろんTKOは存在し、1ラウンドで3回…1試合で通算4度のダウンを喫するとTKO負けとなる。

更に不思議なルールとして、試合中に1度だけ2分間の〝タイム〟を取る事が認められている。

ただし、タイムを要求した場合は1度のダウンとして換算される。

そして驚いた事に、これはダウンを奪われている最中にも有効なのだ。

ランキングやチャンピオン制度が無い事なども、他の格闘技とは一線を画している部分と言えようか…


そんな独特の路線を歩むラウェイだが、蹴速にとってムエタイ戦の直後の相手として相応しく無くなってしまったのだ。

その理由はチャンプアの言葉にあった。


〝ツギ タタカウ アイテニハ モテル チカラ ゼンブ ツカウ…ソレガ レイギネッ!〟


本来は総合武術である当麻流蹴体術だが、チャンプア戦に於いて蹴速は打撃技以外の一切を封じて闘った…その事に対してチャンプアが放った言葉である。

そしてそれを了承し約束を交わした蹴速ではあったが、心の奥底ではどうしても

〝相手の土俵で闘い勝つ〟

という事への欲望が、消せない火種として燻っている。

だが…相手に当麻流と同じ総合武術を選んだなら、そんな悪癖も顔を出さずに済む。

そういう結論に達したのだ。

まだ打撃系格闘家を相手に組技を使うのは躊躇われる…ならばリハビリを兼ねて総合武術家と闘い、徐々に誰が相手でも全力を出せる様に近づけて行こうという考えである。

そういう流れでラウェイを外し、結局選んだ相手は…

シラットだった。


シラット…これまた聞き慣れないかも知れないが、マレーシアやシンガポール、そしてベトナムなど東南アジアでは広く普及している伝統武術である。

そんな中で蹴速が選んだ地はインドネシアだった。

というのもインドネシアでは500を超える流派があり、それぞれに技術的な特徴がある。

つまりは好みの対戦相手を探すのに、選択肢が多いという事だ。


因みにシラットという呼び名が一般的だがこれはマレー語であり、インドネシアでは〝プンチャク〟と呼ばれる事が多い。

近年では2つを合わせ〝プンチャク・シラット〟と呼ばれる事もある。


6世紀頃から存在は確認出来るが、口伝での継承がなされた為に起源の定かでは無い武術…

蹴速はそんな謎の多き未だ見ぬ相手に胸を高鳴らせていた。


「さぁてと…ではでは優秀なプシラット(シラットの使い手)を探すとしますかね♪」


そんな言葉を呟きながら、スカルノハッタ国際空港を後にする。

目指すは安宿の密集する地域、ジャラン・ジャクサ…通称ジャクサ通りである。


当麻流蹴体術vsプンチャク・シラット…

開幕の時は近い。





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