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蹴師(けりし)  作者: 福島崇史
48/55

毒舌の好青年

開いた扉の先に見えるシルエット…

行き交う車のライトで逆光となっている為、顔はハッキリと判らない。


「オヤ?オキャクサン トハ メズラシイノゥ」


流暢な日本語でそう言うと、シルエットは背中越しに扉を閉めた。

ようやくハッキリとしたその風貌…

一言で言うならば〝爽やか好青年〟である。

短く刈り上げたスポーツマンらしき頭髪の下には爽やか過ぎる笑顔…真っ白な歯が更にそれを引き立てる。

身長はそれほど高くは無い。175cm程だろうか。

Tシャツにジャージの下を身につけたその肉体は、服の上からでもしなやかな筋肉で構成されている事が判る。

とは言え決して太い筋肉では無く、細いワイヤーを人型に編んだ様な印象…恐らく体重は70kg程度であろう。

身長175cmという事を考えれば、格闘家としては軽い方と言える。

まぁ打撃系格闘家には結構居るタイプなのだが、どんな怪物が現れるかと身構えていた蹴速達からすれば、肩透かしを喰らった感は否めない。


「遅いぞいっ!アベルッ!!」


爺さんがいきなり怒鳴ると…


「ヤカマシイワ イマガ ヨテイドオリ ノ ジカン ジャロウガ」


言葉遣いは荒いが、にこやかな表情のままアベルが返す。

そのやり取りをキョトン顔で見呆ける一同…

それに気付いたアベルが言う。


「アア…ワシガ ニホンゴ ヲ シャベレテ オドロイトルンジャナ?ソコノ シニゾコナイ ガ イイヨッタンジャ 〝ワシニ オソワリタイナラ デシ ノ オマエガ ニホンゴ ヲ オボエイ!〟ッテネ…ダカラ ヒッシニ オボエタマデジャヨ」


(ま、間違った覚え方してますやん…)とは蹴速の心の声。


(感染(うつ)ってる…完コピやがな…)とは高柳の心の声。


(流石は俺の爺さんやで!尊敬されとるのぅ♪)とは駿河の心の声…この祖父あってこの孫あり…である。


「デ…ジジイ…コノ ウマノホネ ドモハ?」


(く、口悪っ!)これは3人共通の心の声。


「フム…ワシのボンクラ孫が連れて来たんじゃが、日本から来たらしくてな…何ちゃらっちゅう武術の使い手だそうで、サバットと闘いと~てフランスくんだりまで来たアホ共じゃ。アベルよ、お前少し遊んだれや!?」


「オ~♪ナンチャラ!アノ マボロシ ノ ブジュツ ナンチャラ ノ ツカイテ カヨッ!?ソレナラ タノシメソウジャ!ヨカロウ…アイテ シテヤルワイッ!」


(あ~ぁ…爺さんが何ちゃらっちゅう武術って言ったのを、〝何ちゃら〟って流派やと思ってるわコイツ…しかも何が〝あの幻の武術〟だよ…知ったかぶりっちゅうか、調子いいっちゅうか…まぁ聞きようによっちゃプンチャクみたいな響きだけどよ…)


「トリアエズ キガエテ クルデナ オヌシ モ ジュンビ シテ マットル ガ エエ」


そう言うとアベルは右手を差し出して来た。

蹴速が何気無くそれを握り返すと、アベルは数秒の後に手を放して奥へと消えた。


「良かったやないけ!受けてくれてよ!」


「ほんまほんま!こないにすんなり話が進むとは思わなんだわ!」


駿河と高柳の関西弁コンビが蹴速の身体をペシペシ叩きながら言うが、蹴速の視線は老人の方へと一直線に伸びている…


「爺さん…アンタに礼を言わなきゃな…確かにアイツは怪物みてぇだわ」


そう言った蹴速が今度は下へと視線を落とした。

するとそこには…握られた部分が変色し、小刻みに震える右手があった。



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