爪先
「へぇ…サバット使いをねぇ…」
そう言って目を鈍く光らせた駿河だが、突然表情を緩めると…
「ま、お前らの目的は解ったわいな。とりあえずそれは置いといて…や。何でこういう状況になったんか…先ずはその事情を聞かせて貰おやないけ?」
こういう状況…つまりは何故に自分の配下の者に連行される事になったのか?
そう問うているのだ。
「いや、実はな…」
高柳は空港から此処までの出来事を事細かに話した。
それを聞いた駿河の表情が一変する…
「ほんまか…それ?」
「俺が嘘つくメリットあらへんやろが」
すると駿河、高柳と蹴速を連行して来た2人へとナイフの様に尖った目を向けた。
それを受けた2人の全身が強張ったのが一目で判る。怯えているのだ…
そして手招きされるがまま、重い足取りで駿河へと近付く。
駿河は2人を両脇に抱える様に抱き寄せると、その耳元へとフランス語で何やら囁いた。
2人の目が許しを乞う弱々しい物へと変わった瞬間、鈍い音を響かせながら頭を抱えて膝をつく2人。
駿河が両脇に抱えていた2人の頭をぶつけ合ったのだ。しかし駿河の動きはまだ止まらない…
膝をついた2人目掛けて、蹴りを連続で見舞ったのだ。
痩せた男へ左ハイキックを放つと、その脚を止める事無く、返す刀で小肥りの男の喉元へサイドキックを突き刺したのだ。微塵もバランスを崩す事無く…
明らかに素人の〝それ〟では無かった。
駿河は2人が顔面から地面に崩れ落ちたのを見届けると…
「すまんかったな…下の者には日本人だけは的にすんなって厳しく言うてあるんやけども、どうにもコイツらにゃあ日本人と中国人と韓国人の区別がつかんみたいでな…」
「まぁ…そのキツ~い仕置きを見せられたら許さん訳にはいかんわな」
「そない言うて貰たら助かるわ…ほんま堪忍やで」
ここで駿河と高柳のやり取りに蹴速が割り込んだ。
「アンタ…使えるんだろ?」
これに駿河がニヤリと笑みを返す。
「へっへっへ…アンちゃんなかなかに目敏いな♪流石は世界と蹴り比べするだけの事あるやんけ」
「それ…サバットだよな?」
「そない思う根拠は?」
「さっきアンタが見せたサイドキック…あれはサバットで最も多用される蹴り技だろ?しかもアンタは脛じゃ無くて爪先で蹴った…それも靴を履いて蹴り合うサバットの特徴だからな」
それを聞いた駿河、俯き気味に鼻頭を人差し指で3回擦ると…
「ええ目をしとるのぅ…ご名答や!お前らが探しとるサバット使い…案外近い所におったな♪」
「ああ…本当にツイてるよ♪」
呟いた蹴速がグイと前に出る。
が、しかし…
「ヤラへんで」
駿河が意外な言葉を吐き出した。
「なっ!?」
虚をつかれたかの如く間抜けな声を発した蹴速。
「だってよ考えてみぃや?アンちゃんと俺、ヤル理由があらへんがな」
「いや…そっちの都合で俺達は迷惑被った訳だしよ…」
「それについちゃ詫びたやんけ?アホな部下にはケジメもつけた…それとも何か?これ以上の事を望むっちゅうんか?えらい強欲な奴っちゃのぅ…」
「ング…ッ!!」
「とにかく…や、敵対する理由が無い以上、俺とお前がヤル理由もあらへん。何が悲しゅうて理由も無くて、金にもならへんド突き合いをせなアカンねんな…わかったらお引き取り願おかぁ」
そう言って背を向けた駿河、背中越しに手をヒラヒラと振って見せる。
すると蹴速…
「理由…ね…理由がありゃいいんだな?」
異物を吐き出す様に呟くと、駿河に向かって一気に駆け出した…




