連行
「ほぅ~…さっきの御礼参りたぁえらい義理堅い奴等やのぅ」
高柳が耳を小指でほじくりながら2人組に言うが…
「兄やん…フランス語で言わんと通じんて…ほら!そいつらキョトンとしてるもの!」
「あ~?フランス語?んなもんボンジュール、シルブプレ、ボンボヤージュくらいしか知らんがな…」
するとこの単語の羅列が奇跡を見せた。
直訳すれば…
〝こんにちは、お願いします、良い旅を〟
高柳が拙いフランス語で許しを請うていると捉えられたのだ。
まぁボンボヤージュは本来、旅立つ相手の安全を願って掛ける言葉なのだが…
2人組が互いの顔を見合せる。
そして向かって右側に立っている痩せた青白い男が、親指を振り上げ〝ついて来い〟というジェスチャーを見せた。
逆側に居た小肥りの男が、高柳と蹴速の背後に回り込む…恐らくは逃がさない為の事であろうが、そのデップリとした腹で2人より速く走れるのかは些か疑問である。
「兄やん…どうすんの?見知らぬ土地でいきなりトラブルはゴメンだぜ?」
「確かにな。でもよ…お前が闘いたがってるサバット、元々は不良の喧嘩術や…もしかしたらコイツらも繋がりあるかもしれへんで?」
「いや…わざわざヤバイ線を辿らんでも、街中に行きゃあ普通にジムがあるっしょ?」
呆れたような口振りの蹴速に対し高柳は…
「ま、面白そうやし行ってみようや♪万一ヤバそうでも後ろはおデブちゃんや…走って逃げれるやろぅさ♪」
そう言ってイタズラっ子の様な笑顔を見せた。
〝ったく…高柳の兄やん、俺より喧嘩好きかもしれんよな…実際…〟
腹の中でボヤきながらも、深い溜め息と共に覚悟を決めた蹴速。
そんなやり取りに痺れを切らしたのか、痩せた男の方が何やら喚いているがフランス語なので全くもって解らない。
しかし今のシチュエーションから〝早く来い〟とか、そういう意味合いであろう事は想像出来る。
「へいへい…ついて行きますともさ♪」
軽い口調で呟いた高柳が足を動かすと、蹴速もそれに続いて歩みを進めた。
駅を出て暫く歩くとちょっとした公園に着いた。公園と言っても遊具がある訳では無く、目につくのは管理者用の倉庫らしき小屋だけ…実際に遊んでいる子供の姿も無い。
それどころか怪しい雰囲気とドス黒いオーラが立ち込めており、不良の溜まり場になるべくしてなった感すらある…
そこで後ろに居た小肥りの男が、突然指笛を鳴らした。
すると小屋からワラワラと若い男達が姿を現し始める…その数8人。
そしてアッという間に2人は囲まれていた。
「おい…ヤバいんじゃねぇの?」
「ひぃ…ふぅ…みぃ…………最初の2人と合わせて合計10人か…確かにちぃ~とばかしヤバいかもな。かと言ってこう囲まれちゃ逃げるのも難しいし、とりあえず奴等の目的が何なんか聞こうや?」
「目的って…何を呑気な事言ってんだよ!んなもん金に決まっとろうよ!!せっかく稼いだ金を渡すなんざぁ御免だぜ俺は!!そもそも話を聞こうにも言葉が解んねぇってのによ…」
軽い口論をしていると、小屋から新たに1人の男が現れた。それを見た高柳が頭を抱えながら…
「あっちゃ~…1人増えてしもたがな…」
「最悪やん…」
蹴速も同じく頭を抱える。
すると…
「お前ら…日本人か?」
「へっ!?」
突然聞こえた日本語に、2人揃って間抜けな声をあげる。
そして声の主へ目をやると、最後に小屋から出て来たあの男だった。
身長は180cmあるか無いか…体重は70kgも無いであろう。
Tシャツ姿を見るに、お世辞にも逞しいとは呼べない肉体である。
しかし坊主頭の下にある顔つきは負けん気の強さが滲み出ており、その目の奥には狂気すら宿って見える。
そして…もう1つ明らかに判る事があった…
それを高柳が確認する。
「アンタ…日本人やんな?」
するとその男…
「オイ…先に訊いたのはこっちやろぅがよ!質問に質問で答えとんちゃうぞっこのタコッ!」
そう凄んだ後…
「まあええ…お察しの通りワシは日本人や…名前は駿河 喜一…ここいら一帯の不良を束ねとる者や。で、お前らはよ?」
これに高柳が答える。
「お?その口調…アンタも関西人やな?俺も関西人でな、名前は高柳 修一…まぁ平たく言やぁ武者修行の旅をしとる。で、コイツが…」
高柳が親指で蹴速を指した時、その紹介を遮る様にして蹴速が自ら名乗った。
「俺は当麻 蹴速。蹴りが速いって書いて蹴速。その名の通り蹴り技が得意でね…世界中の格闘技と蹴り比べの旅をしてて、次の相手にサバットを選んでフランスまで来たのさ。アンタの知り合いにサバット使いは居ないかい?」
「へぇ…サバット使いをねぇ…」
そう呟いた駿河の目は鈍い光を放っていた…




