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蹴師(けりし)  作者: 福島崇史
37/55

掌握

〝いや…まさかね…〟


アレクセイの構えを見て骨法を連想した蹴速だったが、いくら何でもそんな訳は無かろうと考えを打ち消した。

日本においても経験者が少ない格闘技である…

それを遥か異国の地ロシアで見るはずが無いと。

しかし、アレクセイがあれほど日本語が達者な事を考えると、あながち無くも無い…そう考えてる自分も確かに居る。


〝ええいっ!やめたやめた!考えてもしゃあない!()ってみりゃ判る事だしな!!〟


迷いを掻き消す様に首を振り、自ら初弾を放って行く。

先ずは様子見の左ローキック…

これはダメージを狙った物では無く、アレクセイの反応を窺う為の物。

案の定、腰を引いて軽くいなされる。


〝だろうね…ならコレはどうだい?〟


次に放ったのは左ローから更に踏み込んでの右ロー、ローキックによるワンツーである。

これならば腰を引いただけでは右のローを捌ききれない。

しかしそれを読んでいたのかアレクセイ、先よりも大きく後退し2発のローキックをどちらも空振りさせた。

だが意識が下に向き、視線も蹴速の足元に向けられている。


〝よっしゃ!かかった♪〟


この機を逃がさず更に踏み込む蹴速!

すかさず左ストレートを顔面に走らせた!

ところが…

アレクセイは立てている左手でそれを外側へと弾くと、そのまま蹴速の左手首を掴みながら引き込んだ!

蹴速の身体が強制的に加速させられる!


〝え…!?〟


呆気に取られた瞬間、視界の左端に何かが飛び込んで来たのがわかった。

それはアレクセイの右手…

伸びきった蹴速の左腕内側から放たれた右の掌打である。

これが蹴速の顎を綺麗に捉える!

しかし然程のダメージは無い。

KOを狙ったというよりも、動きを封じる為の技という感じであった。

実際に一瞬動きを止められてしまった蹴速が、その流れで腕関節を取られそうになる!


「うわったっとっとっと…!!」


訳のわからない奇声を発しながら、自ら前転して難を逃れた蹴速。

そのままもう1回転し、十分な間合いを確保する。


「ふぃ~…危ねぇ危ねぇ…」


顎下と額をオープンフィンガーグローブで拭いながら呟くが、言葉とは裏腹にその表情は愉しそうであった。

対するアレクセイは、構えを崩さぬままで蹴速を正面に睨んでいる。


「そう怖い顔すんなって大将!まだ始まったばっかなんだしよ、ちょっとばかしお喋りしようや?」


これに怪訝な表情を返したアレクセイだったが直ぐに…


「コトワル!」


その一言だけを投げつけた。


「まぁそう言うとは思ったよ…なら1つだけ質問に答えてくれや?」


「……」


「アンタ…いつ何処で骨法を学んだんだい?」


この質問がアレクセイの身体を一瞬強張らせた。

しかし直ぐに表情を緩めると…


「フッ…ヤハリ バレテ イタカ…」


諦めた様に言葉を返した。


「さっきアンタが使ったの…ありゃ〝掌握(しょうあく)〟だろ?あんな独特の技を使われちゃあ流石にわかるさ♪」


「マァ…ニホンジン ノ オマエガ シッテイテモ フシギ デハ ナイガ コンナニ ハヤク ミヌカレル トハナ…」


「俺ぁよ、前の試合を観てアンタが使う技はシステマだって判断したんだが、なんか気持ち悪かったんだよ…」


「キモチワルイ?」


「ああ…アンタがまだ他にも隠し玉を持ってる様な気がしてさ。コイツがその正体だったって訳だな?しかしロシア人のアンタがまさか骨法とはね…」


「フンッ!オシャベリ ハ コレクライ デ ヨカロウ? サッサト カマエロ!」


「ま、それもそうだな…終わったら詳しい事を聞かせてくれや♪」


「オタガイ ニ ハナセル ジョウタイ デ オワレタラ…ナ」


「サラッと怖い事言うねぇ…大将」


そう呟いた蹴速が改めて構えを取る。

そしてその構えを見た者全員が、驚愕の声を高々と挙げる事となった。

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