掌握
〝いや…まさかね…〟
アレクセイの構えを見て骨法を連想した蹴速だったが、いくら何でもそんな訳は無かろうと考えを打ち消した。
日本においても経験者が少ない格闘技である…
それを遥か異国の地ロシアで見るはずが無いと。
しかし、アレクセイがあれほど日本語が達者な事を考えると、あながち無くも無い…そう考えてる自分も確かに居る。
〝ええいっ!やめたやめた!考えてもしゃあない!闘ってみりゃ判る事だしな!!〟
迷いを掻き消す様に首を振り、自ら初弾を放って行く。
先ずは様子見の左ローキック…
これはダメージを狙った物では無く、アレクセイの反応を窺う為の物。
案の定、腰を引いて軽くいなされる。
〝だろうね…ならコレはどうだい?〟
次に放ったのは左ローから更に踏み込んでの右ロー、ローキックによるワンツーである。
これならば腰を引いただけでは右のローを捌ききれない。
しかしそれを読んでいたのかアレクセイ、先よりも大きく後退し2発のローキックをどちらも空振りさせた。
だが意識が下に向き、視線も蹴速の足元に向けられている。
〝よっしゃ!かかった♪〟
この機を逃がさず更に踏み込む蹴速!
すかさず左ストレートを顔面に走らせた!
ところが…
アレクセイは立てている左手でそれを外側へと弾くと、そのまま蹴速の左手首を掴みながら引き込んだ!
蹴速の身体が強制的に加速させられる!
〝え…!?〟
呆気に取られた瞬間、視界の左端に何かが飛び込んで来たのがわかった。
それはアレクセイの右手…
伸びきった蹴速の左腕内側から放たれた右の掌打である。
これが蹴速の顎を綺麗に捉える!
しかし然程のダメージは無い。
KOを狙ったというよりも、動きを封じる為の技という感じであった。
実際に一瞬動きを止められてしまった蹴速が、その流れで腕関節を取られそうになる!
「うわったっとっとっと…!!」
訳のわからない奇声を発しながら、自ら前転して難を逃れた蹴速。
そのままもう1回転し、十分な間合いを確保する。
「ふぃ~…危ねぇ危ねぇ…」
顎下と額をオープンフィンガーグローブで拭いながら呟くが、言葉とは裏腹にその表情は愉しそうであった。
対するアレクセイは、構えを崩さぬままで蹴速を正面に睨んでいる。
「そう怖い顔すんなって大将!まだ始まったばっかなんだしよ、ちょっとばかしお喋りしようや?」
これに怪訝な表情を返したアレクセイだったが直ぐに…
「コトワル!」
その一言だけを投げつけた。
「まぁそう言うとは思ったよ…なら1つだけ質問に答えてくれや?」
「……」
「アンタ…いつ何処で骨法を学んだんだい?」
この質問がアレクセイの身体を一瞬強張らせた。
しかし直ぐに表情を緩めると…
「フッ…ヤハリ バレテ イタカ…」
諦めた様に言葉を返した。
「さっきアンタが使ったの…ありゃ〝掌握〟だろ?あんな独特の技を使われちゃあ流石にわかるさ♪」
「マァ…ニホンジン ノ オマエガ シッテイテモ フシギ デハ ナイガ コンナニ ハヤク ミヌカレル トハナ…」
「俺ぁよ、前の試合を観てアンタが使う技はシステマだって判断したんだが、なんか気持ち悪かったんだよ…」
「キモチワルイ?」
「ああ…アンタがまだ他にも隠し玉を持ってる様な気がしてさ。コイツがその正体だったって訳だな?しかしロシア人のアンタがまさか骨法とはね…」
「フンッ!オシャベリ ハ コレクライ デ ヨカロウ? サッサト カマエロ!」
「ま、それもそうだな…終わったら詳しい事を聞かせてくれや♪」
「オタガイ ニ ハナセル ジョウタイ デ オワレタラ…ナ」
「サラッと怖い事言うねぇ…大将」
そう呟いた蹴速が改めて構えを取る。
そしてその構えを見た者全員が、驚愕の声を高々と挙げる事となった。




