拘るな!
レフリーに呼び寄せられ、リング中央で対面する高柳とギガント。
対面と言っても高柳からすれば、普通に前を向いていてはギガントの腹辺りしか目に入らない。
逆にギガントは、一切の遮蔽物も無く遠くを見渡せてしまう。
両者の体格差はそれほどであった。
身長172cm 体重70kgの高柳の前に立つのは、身長215cm 体重125kgの〝肉の壁〟……
通常ならば試合が組まれる事自体が有り得ない組み合わせである。
どうしても恐怖心が沸き上がる高柳だが…
〝く~っ!見れば見る程にデケェなオイ!ほんまに山やで…頭のある辺り、人より空気薄いんちゃうやろか?〟
そんな下らない事を考えて気を紛らわせる。
対するギガントは、虫ケラでも見る様な冷たい目で高柳を見下ろしていた。
レフリーの説明が終わり、両者にコーナーへ戻るよう指示を出すと、ギガントは小バカにした様に
鼻を鳴らし首を振りながら戻って行った。
それを見た高柳も別の意味で首を振り、何やらブツブツ唱えながらコーナーに戻る…
「無理無理無理無理無理…無理やって!あんなん絶対無理やって!」
セコンドの蹴速へと泣きそうな表情で訴えかけた。
すると蹴速、励ますどころか無情な一言を口にする。
「まぁ…無理だろうな」
「オイッ!そこは嘘でも〝イケる〟とか前向きな言葉を掛けるやろ?普通!」
「なんや兄やん…そんな気休めの言葉が欲しいのかい?なら幾らでも言ってやるけど、なあアレクセイ?」
「ソウダナ…ウスッペライ ヤサシサ ヲ ゴショモウ ナラ オノゾミ ノ ママニ…ドウスル?」
ニヤニヤしながら言う2人を睨み付けながら、高柳が気を吐く様に答える…
「要らんっ!!」
〝ったく…こいつらと来たらよ!てか…アレクセイの奴、頑固の意味も知らんかったくせに御所望とか難しい日本語は知ってんのな…〟
怒り半分、呆れ半分で2人に背を向けた高柳、そのままゆっくりとリング中央へ向かう。
その背に蹴速が言葉を投げた。
「兄やん!アドバイスを1つだけ!」
「あん?」
「シラットに拘るな!」
「……」
無言のまま再びリング中央へ歩みを進める高柳、頭の中で今投げかけられた言葉を反芻する…
〝シラット使いの俺に向かってシラットに拘るなやと?どういう意味や?〟
しかし答えは出ぬままリング中央へと到達してしまった。
そしてついに…レフリーの甲高い声が試合の開始を告げる!
「ファイッ!!」
開始と同時にギガントの周りを跳ねながら様子を見る。しかし…
〝クッ…!こんだけデカいと流石にリングが狭ぇ!どこに逃げても奴の射程圏内に思えてまうな…〟
そんな弱気を見越したか、ギガントが突然のハイキックを放った!
その長い足の軌道は、まるでリングを半分刈り取るかの様である。
しかし高柳もそれをダッキングでかわす。
〝ブンッ!〟と唸りをあげた物が頭上スレスレを掠めた。
〝よし!〟
ところが…
初弾をミスらせた事で高柳の心に緩みが生じてしまう…
次の瞬間、まるで〝破城槌〟を打ち込まれたかの如き衝撃が腹部を襲っていた…




