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蹴師(けりし)  作者: 福島崇史
30/55

喧嘩とスポーツ

当麻流蹴体術〝奈落〟を喰らい、後頭部から地に叩きつけられたイリューヒンは、泡沫を口角に溜めて失神していた。

しかしドクターの処置により、直ぐに意識を回復させる。

その間、蹴速はリングから出る事無くイリューヒンの様子を見守っていた。


「よう…目覚めたかい?」


そう言って右手を差し伸べると、イリューヒンも照れた様な苦笑いを浮かべながらそれを握り返した。

そして蹴速が起こし上げると、そのまま健闘を称え合うかの様な抱擁へ。

地元で有名な〝ワル〟とは思えない程、清しい笑顔で蹴速の右手を掲げて勝者を称えるイリューヒン。

その後もう一度握手を交わし、深々と頭を下げてから互いにリングを後にした。


「お疲れ!」


高柳が声を掛けながらタオルを投げ渡す。

すると直ぐ脇からパチパチと手を叩く音が聴こえて来た。

拍手の主はアレクセイである。

それにツラれて周囲の観客も一斉に手を叩き始めた。

突如浴びせられた拍手の嵐に蹴速もはにかむ。


「イイ…ケンカ ダッタ…」


アレクセイが肩に手を掛けながら言うが、蹴速はこれを否定する…


「喧嘩?違うね…これは健全なスポーツさ」


「スポーツ…ダト?」


「ああ…そうさ。ずっとアンタはコレを喧嘩だって…上品なスポーツ格闘技じゃ通用しない世界だって言ってたけどさ、これは健全過ぎる程にスポーツだよ」


「……」


「闘う相手や場所も日時も決まってて、必ず素手のタイマン…危なくなったら止めて貰えて、止められたら相手も素直に()めてくれる…怪我をしても待機してるドクターが直ぐに診てくれて、勝ったら金まで貰える…

こんな恵まれた喧嘩があってたまるかよ。喧嘩にゃ喧嘩の〝味わい〟ってもんがあるが、この場所にはそれが無い…この理屈、アンタなら解るんだろ?」


アレクセイをチラリと流し見る蹴速。

2人の視線が交差する…

一瞬の緊張感に高柳は焦ったが、その心配は杞憂に終わった。

アレクセイがうつむき、鼻先を掻きながら言ったのである。


「タシカニ…ナ…オマエ ノ イウトオリダ…」


「だろ?賛同頂けてコレ幸いだぜ♪」


「サンド?コレサイワ…?ソレ オレ ノ シラナイ ニホンゴ…」


「あぁ(わり)(わり)い!アンタも同じ意見で嬉しいよって事さ♪」


「ま、なんにせよ無事に終わってホッとしたわ!」


高柳が間に入りながら2人の肩を抱いた時、運営の人間が配当金を持ってやって来た。

支払った掛け金と相手の掛け金、それに観客の掛け金から出た利益の一部を足して約9000ルーブル…日本円にして15000円程が転がり込んだ。


「ファイトマネーとしてコレが高いか安いかはわかんねぇけど…有り難く頂いとくぜ♪」


「まぁ…物価が日本とは(ちゃ)うやろから何とも言えんけど、怪我のリスクを考えたら高くは無ぇわな…ま!少なくとも数回闘()れば、ロシアでの生活費にゃ困らんやろぅさ」


「オイオイ…(にい)やん、俺が稼いだ金でアンタも暮らすつもりかよ?(にい)やんだって強えぇんだから、自分も出て稼げよなっ!」


「そこを何とか…」


「い~やっ!そこは甘やかさ無いぜっ!!

と…言う訳でアレクセイ、近々(にい)やんの試合も組んでくんない?」


これに太い指でOKサインを作ったアレクセイ、早速とばかりに運営の人間と話し始めた。

これに高柳が頭を抱える。


「かぁ~…やっぱ()らなしゃあ無いかぁ!」


話は直ぐにまとまったらしく、ものの1分程でアレクセイが戻った。


「アシタ…アシタ ノ ユウガタ4ジ オマエ ノ シアイ キマッタ」


「早っ!?明日って…もう少し心の準備とかさせて貰えんのかいな?」


ボヤく高柳を無視して蹴速に視線を投げるアレクセイ。


「いや!ワシャ無視かいっ!!」


この叫びすらも無視して蹴速に語り掛ける。


「ケハヤ…オレ ハ オマエ ニ キョウミ ガ デテキタ…チカク オレ ト タタカッテ クレナイカ?」


「へっ!?」


素っ頓狂な声を挙げた高柳に対し、蹴速は驚くほど冷静に言葉を返す…


「アンタならそう言ってくれると思ってたよ♪

いいぜっ!俺もアンタにゃ興味があったし…何よりアンタとなら楽しい〝喧嘩〟が出来そうだかんな♪」


見つめ合い微笑む2人の表情は、新しいオモチャを手にした子供の様に無邪気であった。





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