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蹴師(けりし)  作者: 福島崇史
28/55

岩戸・改

男は自らをイリューヒンと名乗った。


急遽決まった蹴速とイリューヒンの対決…

互いに初戦という事で、少額の2900ロシアルーブルが賭け金として設定された。

日本円にして5000円程である。

身長187cm 体重102kgの蹴速に対し、イリューヒンは172cm 71kgというサイズ…

当然、客のオッズは蹴速に偏るかと思われたが、意外にもほぼ均等に割れていた。

蹴速6イリューヒン4といったところか…

それもそのはず、このイリューヒンという男、このエリアでは知らぬ者が居ない程の〝ワル〟らしい。

地元の不良を束ね、ストリートギャングの頭を気取っている男だと言う。

第1試合でウラジミールと闘ったユーリがそのメンバーらしく、イリューヒンは〝兄貴分〟として応援に駆けつけていた。

観ている内に血が騒ぎ始めたところ、突然訪れた出場のチャンス…元来の目立ちたがり屋も手伝って、直ぐさま名乗り出たという流れの様だ。


両者がオープンフィンガーグローブをはめ試合場に立った。

突然の試合だった為、どちらもが私服のままである。


「上半身も着たままで良いのかい?」


蹴速がイリューヒンに問い掛けるが、当然通じない。

直ぐ側に居たアレクセイに視線を移し無言のまま通訳を促すと、アレクセイが〝やれやれ〟とばかりに首をすくめてイリューヒンにそれを伝えた。

するとイリューヒン、陽気な笑顔を見せながら親指を立て、今度は直ぐに人差し指を蹴速へと向ける。

言葉は解らずとも流石にこのジェスチャーの意味くらいは理解した蹴速…


「アンタが脱がねぇんなら俺も脱がねぇよ」


そう言って指でOKサインを作って見せた。


レフリーがボディチェックを終え、いよいよ試合が始まる。

その時、アレクセイと並んで立つ高柳が声を飛ばした…


「蹴速!用心せぇよ!なんやよぅわからんけど、そいつには嫌ぁ~なもんを感じるんや!だから…」


これに振り向いた蹴速、唇の前に人差し指を立ててウインクをして見せる。そして…


「わあっとるよ(にい)やん、でもこっから先は俺とアイツの世界や…部外者はご遠慮願うでぇ♪」


そう言って高柳の言葉を遮った。

そしてそのタイミングでレフリーの声がこだまする。

「ファイッ!!」


イリューヒンがいきなり突っ掛けてくるかと思いきや、意外にも静かな立ち上がりとなった。

オーソドックスに構えピョンピョンと跳ねながら、時折左ジャブで牽制して来る。

対する蹴速は深く腰を沈め、顔の前で掌を相手に向ける様にして構えていた。

一見すると相撲の仕切りにも似た異様な構えに周囲がザワつく…

タイでのチャンプア戦でも見せた、当麻流蹴体術の構え〝岩戸〟…あれをアレンジした型である。


本来の〝岩戸〟は顔の前で両腕を立てる防御の型だが、今回は相手の出方によって直ぐさま攻撃に出られる様に掌を相手に向けている。

しかし防御の岩戸にも移行出来る様、重心はかなり低く保たれていた。

相手より体格で勝っているからこその構えである。

見た事も無い構えに戸惑いを見せていたイリューヒンだが、何かを思いついたのか急に笑顔を浮かべ、右に大きくサイドステップしながらいきなり左ハイキックを放って来た。

蹴速の構えが低いだけに実質ミドルの高さであり、それだけに到達時間も速い。


しかし蹴速はイリューヒンが蹴りを出す事を読んでいた。

この構えの極度に低い重心…

そこには人の心理を突く物がある。

人間、低い位置に相手の頭があると蹴りたくなるものなのだ。ましてや派手好きで目立ちたがり屋のイリューヒンなら尚更…そう踏んでの事だったのだ。


落ち着いて蹴り足を捌きにかかる…はずだった。

しかし実際に呻き声を挙げたのは蹴速の方である。

そして呻き声の直後に響いたのは破裂音…

それはイリューヒンの蹴りが蹴速の顔面を捉えた音であった…







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