第1次接触
ついに対峙した両者…
間合いは未だ遠く、互いの制空権は重なっていない。
すると、ふいに蹴速が構えを解かぬまま話しかけた。
「おっ始める前に訊いとくぜ。アンタ名前は?つっても日本語は通じねぇわな…え~っと…ワッチャネーム?」
「…ルディアント」
憮然とした表情で男はそう答えた。
「ルディアント…どこが名字でどこが名前かは解んねぇけど、とりあえずはルディって呼ばせて貰うぜ…ってこれも通じねてねぇか…ハハハ
俺は蹴速!Kehaya!アンダァスタン?」
ルディは答えるどころか、まるで興味も無さそうに無反応である。
ここで、様子を見ていた高柳が横から声を飛ばした。
「こっちじゃ名字が無いんも珍しく無いんや。てか…そろそろお喋りは止めた方がええのんとちゃうか?ルディアントは既にバチバチの戦闘モードに入っとんぞ」
蹴速がルディへと視線を戻す…
するとそこには、更に強くそして重い目付きとなったルディが蹴速を睨めつけていた。
「なるほど…確かに」
そう呟くと、それを最後に蹴速も口を固く結んだ。
蹴速の構えはいつも通り、当麻流独特の物だった。刀を持たぬ剣道の構えとでも例えれば解りやすいだろうか…
掌は開かれており、まるで手刀を刀に見立てている様である。
ベタ足のままでステップを踏む事も無く、どっしりと構えながら静かに相手の動向を窺っている。
対するルディの構え…こちらも異質な物であった。
半身にもならず、上体はほぼ正面を向いている。
歩幅は肩幅ほどに開かれていて、左足が少しだけ前に出ている。
その左足の踵くらいの位置に右足の爪先が位置しており、両足ともやや内股に絞られていた。
しかし最も異質なのは両腕の存在である。
両腕とも顔の前に立てており、掌は頭の上で重ねられている。
そして腕の間に僅かに出来た隙間から、相変わらずの暗き双眸で蹴速を射抜いていた。
これはシラットでは防御に重点を置いた基本の構えであり、蹴速との体格差を考慮しての選択であろう。
「へぇ…亀さんごっこかい?なら手始めに…こいつでどうだいっ!?」
叫ぶと同時に当麻流の歩法〝継ぎ足〟で間合いを詰めると、斬る様にして左の手刀で首筋を狙った!
しかしルディは立てた右腕でがっちりとガードする!
すかさず右の手刀を逆側の首筋へ打ち込む蹴速!
だがこれもルディがしっかりと受け止めた!!
しかし…攻めを防がれながらも、蹴速は腹の中でほくそ笑んでいた…
そうである。左右の手刀を奮い防がれるまでのこの流れ…実は蹴速の思惑通りだったのだ。
実は左右の攻撃を連続でガードした事で、鉄壁と思われたルディの防御態勢に綻びが生まれた。
立てた両腕の下方に隙間が出来てしまったのだ。
これこそが蹴速の狙いだったのである。
〝へ!かかった♪〟
一旦身を沈めた蹴速が身体を跳ね上げながら、その隙間へとアッパー気味の左掌底を放つ!
当麻流〝天道〟
名の通りその動きは、太陽を掴もうとするが如き技である。
しかし…
技が決まるという確信は裏切られ、気付けば身体は横へと流されていた。
ルディは蹴速の外側へと身体を開きながら、立てていた両腕を下に振り〝天道〟を叩き落としたのである。
〝あ、あれ…?〟
身体を流されヨロヨロとふらついた蹴速。
何が起こったのか理解するのに1秒ほど掛かったが、自分の置かれた状況に気が付くと次に襲って来た感情は〝恐怖〟であった。
〝うわわっ!〟
思わず声を漏らしながら前方へ転がり跳ぶ。
すると数瞬前まで自分が居た場所を、ルディの蹴り足が疾り抜けていた。
「っぶねぇ~…」
蹴速は額を拭いながら立ち上がり、再び構えを取ると更にこう続けた。
「なるほど…亀さんの首を出すのは中々に骨が折れるみたいね…」
「……」
相も変わらず無言のルディだが、目に見える形での変化があった。
構えが変わったのだ。
先程までの構えに比べ身体は半身となっている。
しかし何より明確な違いは、貝の様に固く閉じられていた両の腕が、顔の高さで前に出されていた事であろう。
だが何より恐ろしいのは、これまで仏頂面を貫いていたルディの口角が僅かに上がっている事である。
一連の攻防から、蹴速の力量が己より劣ると判断した自信の表れであろうか…
「へぇ…自分から攻める気になったって訳ね…」
僅かに微笑みながらそう呟いた蹴速だったが、屈辱感からかその目だけは微塵も笑っていなかった。




