ナイフと布は覚悟の表明
「俺は高柳 修一。大阪でシラットをやってる者やっ!」
「なんや…散々警戒しときながら結局名乗るのかよ?」
蹴速が突っ込むと高柳が顔色を変えて息を飲む。
「ハッ!お、お前…だ、騙したなっ!?」
「いやいやいや!アンタが勝手に名乗ったんだろぅよ!!」
「チッ!そんな子供騙しの手に引っ掛かるたぁ俺もまだまだ甘いのぅ…」
苛立った様に爪を噛む高柳と…
「だから俺は何も言って無いってばよ…」
困り顔で頭を掻く蹴速…
「まあええわ…俺を騙した事は水に流したるっ!!とにかくそういう事やから、シラットと闘おなんてアホな考えは捨てる事っちゃな!ほなサイナラ!!」
突然思い立った様に捨て台詞を残し、そそくさと立ち去ろうとする高柳、それを蹴速が慌てて引き留める。
「ちょ、話はまだ終わってねぇよ!」
しかしここで蹴速はミスを犯した…
高柳の足を止めようと、彼の背負うリュックに手を掛けてしまったのだ。
途端に高柳の表情が一変した…
「ワレ…何を勝手に触ってくれとんじゃ…?」
それまでの陽気な口調が嘘の様な底冷えする低い声…
そして凄まじい速度で蹴速の手首を掴むと、外側から肘部分を圧迫しながら下方向へと抑えつける。
〝やべっ!!〟
本能的に自ら前転し技から逃れた蹴速だったが、体勢を整えた時には眼前すれすれの所に鋭利な物が突き付けられていた。
思わず息を飲んだ蹴速だったが、よく見るとそれは刃物では無くボールペンだった。
高柳は蹴速が前転すると同時に胸ポケットに挿していたボールペンを手にし、蹴速が動作を終えた所に突き付けたのだ。
「これが実戦で俺が持ってるんがガチの刃物やったら、お前…今死んでたで。見ての通り、シラットは武器術も含めた総合武術や…遊びや無い。
せやけど俺も異国の地に来てまで犯罪者にゃあなりとぅ無いでな、これ位にしといたる。わかったらとっとと去ね」
そう言うとボールペンを胸ポケットに戻し、再び蹴速に背を向けた高柳。
しかし…
「すげぇ!アンタすげぇよ!!」
「あん?」
「いや、こんな綺麗に1本取られたのはいつ以来だろ?しかもこの体格差なのによ!尚更シラットに興味がわいたわっ♪」
「いや、ちょ…」
何かを言おうとする高柳だが、興奮している蹴速の言葉は速度を増すばかりで、その回転はどうにも止められない。
「プシラット(シラット使い)のアンタがインドネシアに居る…って事は、どっかで修行するつもりなんだろ?そうなんだろ?いや!そうに決まってるっ!!」
「いや…あの…だから…」
「俺も連れてってくれよ~なぁ~いいだろ~?さっきの一方的な暴行は水に流すからさぁ~」
「なっ!?一方的な暴行て…猫なで声でサラッとメチャクチャ言いよんなお前っ!!…ったく…なんや調子狂う奴っちゃのぅ…でも、嫌いや無いでお前みたいな奴は…へへへ」
「よっしゃっ♪じゃあ決まりっ!!」
「た~だ~し~…あくまで〝異文化交流〟って名目の見学者として…や!」
「へ…なんで?ワテ頑張るさかい、そんな意地悪言わんといてんかぁ…ちゃんと真面目に学びますさかいによって!」
「お前…大阪をバカにしとるやろ…?」
「いやいや!関西弁が感染ってしもただけでんがな♪」
「先ずはその間違った関西弁をやめぇ!ったく…ええか?シラットに入門するには儀式みたいなもんがあってやな、師匠にナイフと白い布を贈らなアカンねや」
「なんで?」
「ナイフは覚悟を意味し、布は修行で命を落とした時に亡骸を包む為…まぁどっちゃにせよ覚悟の表明ってところやな」
「なんや物騒でんなぁ…」
「…さっき言った事覚えとるか?その間違った関西弁やめぇっつ~のっ!!」
「あ~はいはい♪関西弁の件も入門の件も了解したからさ、とにかく俺も連れてってよ♪」
「なんや軽いし不安やなぁ…とにかくお前は見学者!それだけは弁えるんやでっ!約束やぞっ!!」
これに嘘臭いほど真剣な顔を作った蹴速が頷く。
「よし、ほんなら早速向かうでぇ」
「押忍!宜しくお願いします〝兄弟子〟!!」
「お前やっぱ解ってねぇやろ~っ!!」
こうしてひょんな事から〝2人旅〟となったインドネシア編…
はてさてどうなります事やら…




